チャンピオン開発エピソード:レル
ノクサスという国家はひとつ問題を抱えています。グルグルと回転するデマーシアの愛国者たちでも、忍び寄る黒き霧の脅威でも、ルーンテラで増加の一途をたどるデーモンの存在でもなく…もっと身近に存在する、最高にメタルな問題を。
モルデカイザーは不可避の存在であり、ノクサスは彼を倒すためなら手段を選んでいる余裕はないのです。
しかしその手段とは?ノクサスが一切の倫理観を捨てて究極兵器を作り上げようとしているとしたら、その究極兵器がノクサスに反旗を翻したら何が起きることになるのか…?
この問いの答えが…「レル」の出現でした。さすがのノクサスもこれは想定外だったようです。
憤怒を原動力にして
プロジェクト開始時、開発チームがレルについて知っていたことは「ダークなサポート」と「タンク」という2点のみでした。当然これだけではキャラクターとして成立しませんから、チームは(誰もがそうするように)アーティストに協力を仰ぎました。
「タンク系サポートということでみんな乗り気でしたね。かなり長い間…ブラウム以来作っていなかったので」シニアコンセプトアーティストのJustin
“Riot Earp”
Albersは語ります。「ただブラウムの時と違い、レルには暗い過去と個性を持たせる方針でした。そこで模索を続けていくつかの案を作ったんですが、全員が“金属を曲げる”というコンセプトに強く惹きつけられたんです。コレで行こうと決めたら、あとはレルの出自について掘り下げていくだけでしたね」
闇、強さ、甲冑。ルーンテラでこの3つが一番しっくりくる地域はノクサスをおいて他にありません。ノクサスは包摂性・寛容さ・機会に満ちた国ですから…少なくとも、のし上がるために倫理観を捨てられる者にとっては。
「ノクサスの機密作戦を一手に担う黒薔薇団は、同国の領土拡大と戦力増強という目的のため、“おぞましい手段”にも手を出しています」ナラティブリードのJared
“Carnival Knights”
Rosenは説明します。「デーモンの召喚、ヴォイドの魔法、死した神の蘇生と制御…実に色々な事を進めているんです。そして千歳の首領率いるこのろくでもない結社が発見した魔法のひとつが“シジル”でした。これは生者から魔法の力を剥ぎ取り、無理やり他者へと注ぎ込む技術です」
そして開発チームは、レルの「暗い過去」を突き詰めていく過程でノクサスの闇に迫ることになります。
黒薔薇団の団員とノクサス軍上級兵士の間に生まれたレルは、幼い頃から非凡な魔法の才能を――それも極めて希少な金属操作の魔法「鋼術」を――示していました。金属に覆われた亡霊であるモルデカイザーと戦うにはうってつけの術ですから、両親はノクサスの愛国者ならば当然とばかりに魔法学院に入学させます。すべては、彼女をノクサスの兵器へ育て上げるために。
数年におよぶ学院生活の中で、レルは「互いに競い高め合う」という偽りの学院方針に従い生徒同士の戦闘を強いられ続け…すべての戦闘に勝利していきました。
しかし彼女が他の生徒を倒して急速に力を高めていくと、倒された生徒たちはレルの人生から引き剥がされていくかのように姿を消していきます。その実態は、学院の教師が負けた生徒たちから魔力を引き剥がし、レル…すなわちノクサスの究極兵器に注ぎ込んでいたのです。
「学院はシジルの魔法を使って他の子供たちから魔力を引き剥がし、レルに注ぎ込んでいました。これが彼女の潜在能力を引き出していたんです」Riot
Earpは説明します。「しかしそれは、レルと他の生徒の双方にとって大きな痛みを伴うプロセスです。私はプレイヤーがそれをはっきりと視認できるようにするため、彼女の腕…特にランスを持つほうの腕に無数のシジルを配置しました。彼女が耐えてきた痛みと暗い過去をプレイヤーにきちんと理解して欲しかったので」
レルに敗北した生徒は、受けた傷が原因で死亡するか、学院の職員によって(レルに注ぎ込むための)魔力を剥ぎ取られていました。そして魔力を奪われた生徒は魔力と感情を失い、「無」(ゾンビのような抜け殻)の状態となりました。
一方、レルはそんな事は何も知らずに戦わされていました。学院の友だちは彼女の人生で唯一思いやりや愛情を教えてくれた存在であり、本心では戦いたくなどなかったのです。やがてレルは、自分がずっと欺かれていたこと、他の生徒を倒すよう強要されていたことを知り、誰も彼も・何もかもに対して怒りをぶつけ…学院のすべてを破壊します。
「怒りというのは共感するのが非常に難しい感情ですが、プレイヤーの皆さんにはレルの過去…彼女が耐えてきた痛み、胸が張り裂けるような思い、そのすべてを理解してもらえるよう力を尽くしました」ナラティブエディターElan
“Qulani”
Stimmelは語ります。「怒りは共感しにくい、という点はレルの年齢を若くした理由のひとつでもあります。怒りは若い人物が抱える場合のほうが理解・感情移入しやすいですから。大半のティーンエージャーは心に苦悩を抱えています。まだ自分の過ごしてきた過去が嘘にまみれていると知らない段階で、既に苦悩を抱えているんです」
これが私たちの知る「レル」です。学院を離れ自由になった彼女。「黒薔薇団」の目ざしたノクサス最強の兵器は完成し、ついに解き放たれました。
解き放たれし鋼術士
「レルはこれ以上ないくらい屈強なタンクにしたかったんです。踏みしめた大地が割れ、その強さで大地が崩れるような重装甲キャラクター、というイメージが頭の中にあったので」ゲームデザイナーStash
“Riot Stashu”
Chelluckは振り返ります。「ただ残念ながらそういう感覚をLoL上で表現するのは困難で、僕には彼女のテーマである鋼術(金属を操る力)をしっかりと具現化する責任がありました。鋼術をゲームプレイに落とし込む上では、屈強さと攻撃の力強さをプレイ感に反映させつつも、メイジっぽい印象にならない方法を模索していました」
この答えを導き出すには、鋼術とは何なのか?という問いの答えを正確に理解する必要があります。どういう仕組みなのか?LoL上でどう表現するのか?金属を飛ばすメイジではなく、タンクらしいプレイ感を作るには何をすべきか?と。
「レルは見た目だけでもタンクだと分かるように強く意識しました」Riot
Earpは語ります。「彼女の装甲は学院にあった金属を材料にしているんですが、デザインする時には屈強さと力強さが見た目から伝わるように強く意識しました。そこで装甲の金属パーツを巨大でダークにし、バランスを取るためにシルエットをドレス風にしたんです」
レルの装甲は自分の鋼術で作り出したものです。この装甲が磁場のように機能し、地中に埋もれている金属や直接触れている金属を制御します。しかし広い戦場で数百メートル先にいる対象を選んで骨装甲を砕く、といったことはできません。
「レルが敵の装甲を制御するには近寄る必要があること、彼女がタンクであることはゲームプレイではっきりと示す必要がありました」Riot Stashuは説明します。「中でも溜め込んだ力を開放して周囲の敵を引き込むULTスキルは、この2つの設定を一番鮮烈に表現するものになっています。ただし敵は引き込まれた状態でもスキルを発動でき、詠唱中であれば妨害することもできません」
しかしLoL上で鋼術の見た目を決めるにはゲームプレイ以外の要因も必要です。でも視認性が重要なゲームにおいて、見えない力をどう表現すれば良いのでしょう?
「レルに着手した当時、鋼術のビジュアルを分かりやすく表現するアイデアはほとんどありませんでした。今思えば奇妙な行動ですが、当時の私はまず磁石を眺めるところから初めたんですよ」VFXアーティストのKyle
“RiotPrismaPrime”
Valentinは回想します。「僕は磁石がどういう仕組みで作用するのかを十全には理解していませんが、引きつける力がとんでもなく強いこと、そして空気中の電子が動く表現にはディストーション(歪み)がよく使われることは知っていました」
その後RiotPrismaPrimeは様々なエフェクトや光表現を使って試行錯誤を重ねた末に、彼にとってレルらしいと感じられる表現…色収差にたどり着きます。RiotPrismaPrime は色収差の活用に注力し、レルがスキルを使用すると周囲の光が屈折するように見えるビジュアルエフェクトを作成、そこにレルの強調色である赤色と黄色を重ね、彼女の個性である逞しさと憤怒の要素を加えていきます。
「金属を操る術はファンタジー/SFジャンルでは別段新しいコンセプトではありませんが、ルーンテラでは初登場です。なのでレルのサウンドには聴覚的に他の魔法とは違う響きを持たせる必要がありました」サウンドデザイナーのDarren “Riot DummerWitz” Lodwickは解説します。「さらにモルデカイザーやレオナといった金属に覆われた既存チャンピオンたちとの差別化も必要だったので、多種多様な手法や音源を試しましたね。金属音をなめらかな響きに仕上げるため、音源には金属をグラインダーで切断する時の音やドライアイスなども使いましたし、音声処理も大量に施しているんですよ」
騎士と愛馬
「レル開発時の目標の一つに、“馬に乗った重装騎士”というテーマがあったんです」Riot
Stashuは語ります。「ただ私にはレルは凄まじくタンキーにしたいという気持ちがあったので、目標をゲームプレイにうまく落とし込む方法を見つけ出す必要がありました。チームとしての目標も“誰にも止められないが移動は遅いタンク”だったのですが、LoLは移動、位置取り、回避行動が非常に重要なゲームなのでそれでは気の毒だとも感じていました。あと、馬に乗るというアイデアがどうしても捨てられなくて。だから両立するような解決策を見つけてやろうと思ったんです」
レルが金属を思い通りに操れるのならば、どこへ行くにも重装甲のままでいる必要がないのは当然と言えるでしょう。ということは、重装甲素を解いて早く移動できる具体的な手段を決める必要があります。
この手段を与えつつレルらしさを残すのには、チームが当初想定していたよりも長い時間がかかりました。まず対象はレルですから可愛すぎるのは厳禁です。学院関係者を探し出して切り伏せるという使命を背負った者が、虹色のユニコーンに乗っているというわけにはいきませんから。しかし馬の“異世界”感が強すぎれば、彼女が「馬に乗った騎士」だというイメージを明確に伝えられません。
「レルが騎乗するモノのルックスについては、案をいくつか出しましたね」Riot Earpは回想します。「初期の頃は抽象的な金属のデザインやバジリスクなんかをたくさん作っていました。でもどのビジュアルも混乱を招いてしまい上手くいきませんでした。そこでとにかく馬にすると決め、さらに一歩踏み込んで生命感のない金属の馬を描いていきました。このスタイルにすることで、ニンジンをあげたくなるようなタイプの馬には見えなくなったんです」
そしてレルが形態を切り替えられるようにするという決断により、ゲームプレイ面でも屈強なタンクと騎兵という2つのイメージが両立するようになり、チームはアイデアの模索を推し進められるようになりました。形態の切り替えが可能になったことで(もちろんクールダウンはあります)開発チームは形態ごとに自由な発想を取り入れて作り込めるようになったのです。レルは敵後衛に飛び込むと下馬し、移動速度が大幅に遅くなる代わりに物理防御と魔法防御を上昇させます。彼女にとって突撃とは戦闘を仕掛ける意思の表明であり、そこに退却という選択肢はないのです。
「レルが交戦を決意して下馬すると、しばらくは重装甲の形態しか使えなくなります」Riot
Stashuは話します。「下馬することのメリットはタンク性能の向上です。それにより生存時間は伸びますが、倒せなくなるほど固くなるわけではありません。実はプレイテスト、レルには“インティング(注:デッド確定なのは明確なのに飛び込んでいく)馬”というあだ名がついていたんですよ。レルは騎乗形態ならいつでも戦闘を仕掛けられるんですが、下馬した瞬間に退路はなくなります。でも私たちはそれで良いと思っています。プレイヤーは活用法を習得するでしょうし、習得してしまえば飛び込むのは最高に気持ちいですからね」
しかし騎兵というイメージを実現する上では大きな障害もありました。アニメーション作成が本当に、本当に難しかったのです。
「レルの騎兵形態にプレイしていて気持ちの良いアニメーションを付けるのは本当に大変でした。レルの馬は彼女が持つ憤怒と磁力魔法の化身なので、アニメーションも戦場へ颯爽と駆けていく印象が高まるものを目指したんです」シニアアニメーターのDavid “davehelsby” Helsbyは回想します。「これを実現するには、まず装甲の各パーツにアニメーションを付ける必要があります。しかもビジュアルの明確さを損なわずにプレイヤーをワクワクさせるアニメーションを作る必要がありました。馬形態の金属パーツを重装兵形態のビジュアルと揃える作業には本当に長い時間を費やしましたよ」
実はこれもチームが騎兵というテーマを表現したかった理由のひとつです。上で「無」の状態になった学院の子供たちのことを話しましたが、レルはあの子たちのことをいつだって想っています。
「私たちがどれだけ力を尽くしたところで、レルが怒り、憎悪を抱え、復讐に燃えている“だけ”の存在に見えてしまうことは防げません…もちろんその見方が正しくないとは言えませんが、彼女の究極目標はもっとずっと優しいものなんです」Carnival Knightsは言います。「レルは他の誰よりも学院の子供たちのことをふびんに思っています。あの子たちを救えるなら何だってするでしょう。レルは色々な意味で一流の “騎士”で、自衛の術を持たぬ者たちを守りたいと願っている。そして今、何よりも守りたいのがあの子供たちなんです」
失われた命
もしレルの過去をひとつでも変えることができたなら、彼女の人生はまったく別のものになっていたでしょう。両親が黒薔薇団に娘を差し出さなければ…レルが学院の真実に気づかなかったら…あるいは少しでも愛情をその身に受けていたなら…。しかし現実はそうではありませんでした。
もちろんレルは過去に囚われ続けて生きているわけではありません。自分の人生を生き始めた彼女には、少しくらい楽しい気持ちを抱く権利があるはずです。
「レルがティーンエージャーで騎兵だと聞いた時、最初に思い浮かんだのがコイン式の電動木馬――町の食料品店の店頭に置いてあるようなやつ――のことでした」davehelsbyは振り返ります。「ティーンエージャーがあれに乗ってるの、結構見たことがあるんですよ。すごく面白いですよね、心身ともにほとんど大人でも、まだ子供の心が残っている。あれってレルにピッタリだなと感じたんです。大人と同じの責任を背負っていてもまだ子供なんだから、少しくらい楽しむ時間があってもいいじゃないかって」