チャンピオン開発エピソード:セト
最近リリースしたチャンピオンたちと比較すると、セトはかなりシンプルでプレイしやすいチャンピオンですが、彼の開発プロセスもまた同様にシンプルなものでした。「じゃ、じゃあせっかくヴァスタヤの血を引くハーフイケメンなのに、他のエッジィなセンパイ(ケインやアフェリオス)ほどは愛を注がなかったの?」いえいえ!もちろんこのヴァスタヤのバッドボーイにもたくさん愛を注ぎましたよ。それに、スムーズに進んだとは言っても完成させるまでには物凄い労力が必要だったんです。
そう、そこにはちゃんと尊さ(*´ᴗ`*)があるのです。それではLoLに颯爽と現れた新ジャガーノートの開発秘話を見ていきましょう!
挑発的姿勢、敵を組み伏せる腕
「私たちが最後に手がけたトップレーン向け正統派ジャガーノートはダリウスです」とアソシエイトゲームデザイナーのGlenn “Riot Twin Enso” Andersonは語ります。「そこで次に作るジャガーノートの姿を議論していった結果、覚えやすいスキルセットと広く愛される個性を持ったチャンピオンにしようと決まったんです。多くのプレイヤーに愛されるヤツを作ろう、と。それがスタート地点でした」
LoLにはまだ文字通りの意味で「相手を掴んでぶん回す」チャンピオンが存在していませんでしたから、チームはグラップラーというプレイスタイルにとても興味をそそられました。これを受け、1v9する勢いで派手に暴れまわるファイターという案に着想を得たコンセプトアートリードGem “Lonewingy” Limはアートを描き始めます。
四本腕のシルエットを意識したセトの初期デザイン案
最終的にLonewingyが描き上げた初期コンセプトアートは4点でした。最初の案は、ターゴンの民で四本腕の「力の真髄」(取っ組み合いたくない相手ですね…)です。次の案は、ピルトーヴァーのロボット執事で、これはデザインチームで大いに人気を集めました。
「彼は正真正銘の執事ロボなんですよ」とLonewingyは笑いながら話します。「仕草も衣装にも品があり、物腰も柔らかく、スフレだって作れちゃいます。でもいざ戦闘となれば相手を徹底的に殴り倒すんです」
そして3つめのボツ案は、ダーキンのベヒーモス…開発チームは彼に愛をこめて「ムキムキ恐竜(Chunky Dinosaur)」なんてあだ名をつけていました。
そして残ったのが、誇り高きヴァスタヤの血を引くセト…荒くれ者のグラップラー、気になるあの娘が惚れる系のワルです。しかしこの案にもひとつ問題がありました。「グラップラー」系スキルを作るにはいくつか問題があり、チームは仕様の再考を余儀なくされたのです。
「敵チャンピオンを掴んで別の場所に移動させるという仕様には、ゲームデザイン上いくつか問題があったんです」とシニアゲームデザイナーBryan “Riot Axes” Salvatoreは回想します。「まずゲームプレイの視認性の面で問題がたくさん生じます。これはプレイヤーにとって好ましくありませんし、掴みスキルに関連する部分すべてに対してアニメーションを作るのも凄まじい労力が必要になります」
このためRiot Axesはセトの掴み動作に起因する問題を軽減するためにスキルセットを見直します。この結果生まれたのが、拳闘にヒネリを加えたスタイルでした。
「Riot Axesからゲームデザインを引き継いだ時、ゲームデザイン上のカギとなる部分を強く念押しされました」とRiot Twin Ensoは語ります。「曰く、彼にはワン・ツーと刻まれる攻撃のリズム、そして集団戦における標準的な位置取りを覆す要素があるんだと」
セトがどれだけ強くても、近づかなければ攻撃できません
アサシンがキャリー役を倒すためにフランク(想定外の方向からの奇襲)する場合を除けば、一般的な集団戦は前衛と後衛という位置取りでプレイされます。ジャガーノートはそういう場面で耐久力を高めるアイテムやスキルを活かして活躍するわけですが、セトがいる場合はそういう“定番”の位置取りが仇となります。
というのも、従来通りの位置取りこそがセトにとって絶好のチャンスだからです。大量のダメージを受けきり、敵のタンクを掴み、そのタンクが守ろうとしていたキャリー陣にタンク自身を投げつけることで最大火力を発揮する。それこそが彼の一番活躍できるスタイルであり、やりたいことなのですから。
しかし、生粋のグラップラーから殴り合い上等の拳闘スタイルへと移行したことで、四本腕のシルエットを持たせる必然性はなくなってしまいました。
クズリ(クロアナグマ)とラーテル(ミツアナグマ)はどちらが強いか?
「こうしてセトは掴み主体から殴り主体に変更されたため、キャラクターデザインも再考する必要が生じました」とLonewingy。要するに、LoL屈指のイケメン超新星をデザインする役割を担うことになったわけです。
しかしここで、標準的なニ本腕のデザイン(ハードパンチャーらしいデザインです)にしようと判断した開発チームを新たな問題が襲います。普通にデザインしていくと「セトがアイオニア随一の拳闘士ではなく、そこらへんにいる男性に見えてしまう」のです。
三国武神セトのイメージ模索案
「新チャンピオンをデザインする時は、必ずチャンピオンが識別できるようなシルエットなどの特徴を備えるようにして、スキンが変わっても誰だか分かるように心がけているんです」とLonewingyは語ります。「そこでスキン作成時にもうまく目印として機能する、拳用の武器を色々と試していきました」
拳で戦うと決まっている以上、その武器も戦闘スタイルが直感的に伝わるものでなければなりません。拳に装備するセト用の武器…ここまで考えたところで全員の頭に浮かんだのが、クズリとラーテルという2種類の動物でした。
「ヴァスタヤはずっと動物と結びついた存在でした。たとえばザヤとラカンは鳥、ナミは魚ですよね」とLonewingyは続けます。「セトの“動物らしさ”を象徴する要素は、拳につけたブラスナックルにしたかったんですが、どんな動物をモチーフにしたらいいか思いつかなかったんです。そこで少しリサーチをしていきました」
「そしてYouTubeで“クズリ対ラーテルはどちらが強いのか”動画をたくさん視聴した結果、どうやら攻撃面ではクズリがわずかに強そうだと分かりました」とLongwingyは笑いながら回想します。「ラーテルも防御面では間違いなく強いんですよ。
でもセトは戦士であって守護者ではないので、最終的にクズリを選ぶことにしました。かなりの接戦だったんですけれどね!」
セトという名のチャンピオン、その人生は楽ではなかった
「Riot AxesとRiot Twin Ensoが全身全霊を乗せた拳を叩き込むチャンピオンを作り出し、Lonewingyがとんでもなくクールなビジュアルを描き上げてくれたので、私もそれに見合うだけのストーリーを考えなくてはなりませんでした」とシニアライターJohn “JohnODyin” O’Bryanは語ります。「ただセトは激しく直情的な戦闘スタイルを持つ、いかつくて不良っぽい見た目のチャンピオンなので、洗練で優美な上流階級とするのは道理に合わないとは思っていました」
そんな時、Ryan “Reav3” Mireles(チャンピオンチームのリードプロデューサー)が「セトが犯罪組織のボスだったらどうだろう?」と提案します。そのアイデアをベースにしたとたん、彼の物語はするすると形になっていきます。同時にヴァスタヤの血を引くという側面は、チームがアイオニアを深く掘り下げる上でも絶好の機会を提供してくれました。裏社会という視点から同地域を覗くことができたからです。
「セトが登場するまで、アイオニアは白黒はっきりした極端な世界として描かれ続けてきました。ゼドは悪人、カルマとイレリアは善人。その間の、グレーなアイオニアのチャンピオンがずっと不在だったんです」とLonewingyは語ります。
こうしてチームはアイオニアの「グレー」がどんな姿なのかを探しはじめました。
「闘技場というアイデアにみんな惹かれたんです」とJohnODyinは振り返ります。「ノクサスの文化がアイオニアに影響を及ぼしていることを示せて、彼らにとっては暴力で鬱憤を晴らす手段にもなる。セトはその産物でもあるわけですし」
しかし父親がより大きな闘技場を求めてルーンテラ中を放浪し始めると、置き去りにされたセトと母親の生活は一変します。部族から追い出され、人と共に暮すことを強いられたのです。そこはヴァスタヤから追放された母子を快く迎え入れるような場所ではありませんでした。セトの冷淡な部分はこの時の憎悪から生まれたものです。
「セトはまあ傍若無人ですからね」とJohnODyinは笑いながら言います。「母親とお金以外には無関心です。どちらにも手を出そうとしなければ、セトの眼中にも入らないんです」
一方で母親のことは本当に、心の底から気にかけています。彼女が自分の犯罪に巻き込まれることなく暮らせるよう、稼いでくるお金の出どころ(闘技場の収益)について嘘をつくほどに。
「Reav3はずーーーっとセトのことを“セス”って呼んでたんですよ」と笑いながら語るLonewingy。「それじゃ現実世界の名前っぽすぎると説得して、ようやくセトに落ち着いたんです」
こうして鉄血ジャガーノートは完成に至りました。腕は2本、尻尾はなし、髪型はアニメの悪役が嫉妬するほどの格好良さ。愛する母親と、派手なレスリング技が詰め込まれたスキルセットと、父親の問題を抱えた男…完璧です。
…しかし物語を描き終えた後も、チームにはどうしても想像を止められない事がありました。もし父親が2人を捨てなかったら、セトはどんな人生を歩んでいただろう、と。
「おそらく良い子に育ったと思います。大学に行って学位を取って、母親を支えてたんじゃないかな」とLonewingyは想像します。
「でも多分、闘技場は見に行くと思うんですよね。そこで戦いたいとは思わないでしょうけど…」とJohnODyinが横から口をはさみます。
「確かに。闘技場で戦うという道は、母子2人での暮らしが厳しかったからこそ選んだわけだから」とRiot Twin Ensoも頷きます。
一方、JohnODyinはこう述べました。「僕は正直、どうしてるか見当もつかない。でもひとつだけ確かなのは、それはもうセトじゃないってことだけだね」