チャンピオン開発エピソード:ヨネ
カイ=サ、セナ、ヨネの共通点は何でしょう?「全員ボットレーンに行ける」、確かにそれも正解です。ただこの記事で求めているのはもうひとつの答え…「あなたのバンリストに載る前から、物語の登場人物だった」です。
物語の登場人物からチャンピオンになったのはヨネで3人目。彼の登場はLoLの物語を進めていく上で非常に興味深いものであることは間違いありませんが、その開発過程に特に難しい点がなかったと言えば嘘になるでしょう。これまでヨネは、ヤスオの物語に何度か登場しただけ、その人柄もヤスオ視点でしか語られたことがなかったため、魅力的なチャンピオンを作るには情報不足だったのです。
では脇役を主人公(アンチヒーロー)へと昇華しながら、同時にそれまでの人物描写を尊重するにはどうしたら良いのでしょう?
兄弟の物語
物語に初めて登場した時のヨネは弟の追手であり、その後実の弟であるヤスオに殺されています。あの物語が公になって以来7年、私たちが知るヨネの情報はほぼそれだけでした。ヨネにとって(そしてヤスオにとっても)人生最悪の瞬間だけが示されていたのです。
そんなヨネを死者の世界から蘇らせるには、まずいくつかの疑問を解決する必要がありました。
「物語の最後でヨネは死んだように書かれていました」ナラティブライターのMichael “Riot Pls” Yichaoは言います。「僕は当初、ヨネはそもそも死んでいなかったという線で物語を広げようとしてみたのですが、それでは納得できる物語ができませんでした。どうやってもヨネの人生に、そしてヤスオの人生に対して失礼になってしまうんです。今回の目標は兄弟の物語を掘り下げることであり、2人の人生を書き換えることでも、これまでの生き様を否定することでもありませんでしたから」
ヨネとヤスオはずっと複雑な関係にありました。しかしあの殺人事件と兄弟の裏切りが起きるまで、2人は共に育ち、同じ師範の下で修練を重ねてきたわけですから、ある程度の共通点はあるはずです。
「当初はヨネをヤスオと同系統のチャンピオンにしようとしていたんです。ヤスオのピック率を下げたかったので(変な話ですが!)。でもヤスオのピック率を下げることはLoLというゲームの健全性向上にもつながるんですよ」チャンピオンデザイナーJonathan “EndlessPillows” Fullerは語ります。「ヤスオのプレイ率はLoL最高です。そこでヤスオメインのプレイヤーに類似するプレイスタイルの新たな選択肢を提供できれば、チャンピオンの多様性を高めてゲームをフレッシュに保つ効果が期待できると考えたんです」
しかしこのアプローチは上手くいきませんでした。ヤスオ独自のプレイスタイルを持つチャンピオンをもう一体作ることと、単なるヤスオ2.0にしないことを両立させることはほぼ不可能だったのです。EndlessPillowsは無数の案を試し続けましたが、結局は「ヤスオよりヤスオらしいチャンピオン」は作れないことが証明されただけでした。
こうしてチームは、ヨネを独立した人間として扱う必要があると…そして弟と決別した存在にする必要があると認識するようになりました。
「『レジェンド・オブ・ルーンテラ(LoR)』でヨネのカードが出た時、多くのプレイヤーから好意的な反応があったんです」シニアコンセプトアーティストのJustin “Riot Earp” Albersは述べます。「あのカードのヨネは、人生のある時点での彼を描いたものです。ゲーム内で彼はヤスオの“フォロワー”なので、見た目もそれを考慮したものにしています。結果的にカードの絵柄としてはとても良く仕上がりました。でもLoLの見下ろし型視点だと、あのままでは私たちの目指す視認性の基準に届かなかったんですよ」
Riot Earpは生前のヨネ――これまで私たちが知っているヨネ――のアートを複数種描いているのですが、どれもヤスオと似すぎていました。ここでチームはひとつの疑問について真剣に考えるようになります。「LoLのヨネは、LoRのヨネと同一である必要があるのか?」と。
そうではなく、別の時期のヨネを…あるいは死後のヨネをチャンピオンにするのは?
アザカナからは逃げ切れない
「模索案のひとつとして、死後のヨネを一枚描いてみたんです。その時は伝統的なアイオニア式ローブを着せていたのですが、衝撃的な死を遂げた人物なのでその点がどうもしっくり来なかったんですよね」Riot Earpは解説します。「彼が包帯を巻いているのは、致命的な傷の存在を示すことが重要だったからです。死後のヨネは霊的領域に入り、様々な事柄を体験し、大きく変貌を遂げています」
「Riot Earpが描いたデザインを見て、ヨネの人物像と新たな方向性が浮き彫りになりました」Riot Plsは回想します。「あのデザインがヨネとヤスオのコントラストをしっかりと描き出していたので、そこを出発点にして、ヨネの新たな物語を紡ぐことに集中できました。ヨネの現在の状態は?どんな感情を抱えている?目的は?『アザカナ』はそんな思索の末にたどり着いたアイデアだったんです」
死後、霊的領域で目を覚ますヨネ。それは通常ならば、ようやく魂が平穏に包まれることを意味します。しかし彼の魂は違いました…
目覚めたヨネは突然1体のアザカナ――負の感情を糧とする鬼の一種――から襲撃を受けます。アザカナとは、イブリンやタム・ケンチと同じで悪魔の中では上位ではないですが、先述の2体が欲望や嗜癖といった根本的な感情の権化であるのに対し、アザカナはより具体的・個人的な感情(身を刺すような自己不信、忘れ去られる恐怖など)が具現化した存在です。
ヨネを襲ったアザカナはしばらく前から彼を付け狙っていた個体で、ヤスオの追跡中に彼が抱いていた負の感情も喰らっていました。しかし襲いかかる機会をうかがっている間にヨネが死亡したため、ヨネが霊的領域にたどり着いた瞬間を好機と見て、魂を喰らい尽くすべく襲いかかったのです。ヨネはなんとかこれを打ち倒した…ように見えましたが、これが酷い運命へと彼を誘ってしまいます。
次の瞬間、ヨネは現世に戻っていました…決して外せない仮面をつけたまま。この仮面は先ほど討ち倒したアザカナで、その中には悪魔が閉じ込められています。
しかしヨネは悪魔に憑依された者ではありません。彼の自覚する限りにおいて、彼は悪魔に支配などされていませんでした。ラーストとケインの場合と異なり、ヨネとアザカナの間に繋がりは存在しません。ただしヨネは悪魔の力の一部を手にしてはいましたが。
ヨネは文字通りの意味で「自らの魂を肉体から引き剥がし」、しばらくのあいだ定命の身体を脱ぎ捨てて霊的領域に入ることができます。これはゲーム内で彼のEスキルとして表現されている部分です。このスキルを使用するとヨネは複数の敵に猛攻撃を仕掛け、蓄積ダメージを表す印を付与し、肉体に戻ったタイミングで確定ダメージを与えます。ただしゼドやルブランと異なり、ヨネはタイミングを自分で制御できないため、肉体に戻るまで制限時間が来るのを待たねばなりません。
「EndlessPillowsのこの案はナラティブ側にも“ひらめき”を与えてくれました。当時のヨネは現世にのみ存在する設定だったんですが、魂が抜け出るという案を目にしたことで、ヨネがどうアザカナと戦い、狩るのかが見えてきたんです」とRiot Plsは当時を回想します。
なぜ自分は死ねなかったのか?なぜ顔から仮面を外せない事に不安を感じていないのか?ヨネはその理由を知りませんが、やがて彼は自らの運命にまつわる謎を解き明かすためにアザカナを狩るようになります。そして狩りを重ねたヨネは、アザカナの本性と真の名を暴けば仮面として封印できることを発見し、自らに憑いたアザカナの真の名を探し始めました。
アザカナはいつの世も人の傍らに在りましたが、近年はアイオニアで急速に増加しています。ノクサスによる侵攻がかつてないほどの苦痛を生み出したためです。
「アザカナはヨネとヤスオを意味ある形で結びつける役割を果たしていて、個人的にはそこが特に気に入っています」EndlessPillowsは言います。「現世に戻ったヨネは、自分や師範を殺したからヤスオを殺そう、とは考えていません。二人の状況は進展し、互いに目標を得ている。この“誰のものでもない、自分の人生を生きている”ことはLoLのチャンピオンにとってすごく重要だと思うんです」
アザカナ狩りはもちろん簡単ではありません。たとえそれが、過去にアザカナを倒して刀を奪うほどの腕前を持つ男であっても。…そう、ヨネが振るう刀の一方はアザカナから奪ったものなのです。
欠けた者同士がひとつになる瞬間
「ヨネが2種類の刀を振るうという設定は、できることの幅を大きく広げてくれましたね」Riot Earpは語ります。「アザカナの刀はビジュアル的に凄く魅力的で…LoLのどの武器とも違う独自性がありました。もう一振りの“風刃”は彼が生前使っていた刀です。二振りの刀が織りなす美しい対比は自分を含むチーム全員をワクワクさせてくれました。この点はゲームデザインの独自要素にも活かされています」
ヨネは二刀流ということもあり、初期のゲームデザイン案ではスカーミッシャーとして進められていました。当時の案は、人間側の刀が物理ダメージ、アザカナの刀が魔法ダメージを与えるハイブリッド型にして、耐久力自慢のタンクとも渡り合えるようにするというものでした。「でもEとULTをうまく使うとアサシンぽい動きになってしまって。後衛に飛び込んで敵キャリーに大ダメージを与える、スカーミッシャーとアサシンのハイブリッドのようなプレイ感だったんですよ」EndlessPillowsは回想します。
ヨネのQスキルは、人間時代の刀専用のスキルです。ヤスオの「抜刀」と似ていますが、ヤスオが「つむじ風」で敵をノックアップするのに対し、ヨネは風を利用して敵に突進し、命中した相手をノックアップします。一方、Wスキルはアザカナの刀専用の切り払い攻撃で、範囲内の敵に魔法ダメージを与え、さらにヨネを護るシールドを展開します。
「ヨネの刀はそれぞれの個性を際立たせたかったんです。常に二刀流の剣士ではあるんですが、アザカナの刀の重みと太刀筋は鋼鉄製の刀とは大きく異なります」シニアアニメーターのAdam “Cattlegrid” Turnbullはこう説明します。「これをアニメーションで表現するため、鋼鉄製の刀では攻撃モーションを素早くし、アザカナの刀では弧を描く大振りにして重さと大きさの表現にメリハリを付けています」
(後方にテレポートして)「許せ」
アザカナ狩りという新たな生き方を得たヨネ。しかし、それでもヤスオとは兄弟ですから似ている点はあります。ヨネのQでもヤスオ同様大暴れできますし、後衛にダイブする機会を狙っていくプレイパターンも似ています。一方では「兄弟の支え合い」を示すゲーム要素もあります。たとえばヨネにはQだけでなくULTにもノックアップ効果がありますが、これには命中した敵を引き寄せる効果もあるため、ヤスオが最高のULTを放つお膳立てもできるようになっています。
要するに、ヨネとヤスオは対極的存在ではなく、欠けている部分を補い合う存在だということです。
「個人的にはヨネサポートでヤスオとボットレーンに行く、悪い遊びが早くやりたいですね」と笑いながら話すRiot Pls。
「兄弟ボットレーン!いいね!」と応じるRiot Earp。
「スコアは0/10、間違いない」と返答するRiot Pls。
「ああ、それでも試合には勝つんだよね。0/10でパワースパイクを迎えるから」と冗談を飛ばすEndlessPillows。
果たしてこの兄弟に安息の日が訪れることはあるのでしょうか…。