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チャンピオンのバランス調整に客観性を高めた手法を導入してから1年が経ちました。あれ以来、チームが学んだ教訓とは?

サモナーズリフトチームが四部編成でお届けするブログシリーズの第一弾へようこそ。さて、皆さんは昨年の「あるパッチの一生」キャンペーンでリーグ・オブ・レジェンドのバランス調整パッチの制作過程を紹介したのを覚えていますか?(まとめはこちら)今回のシリーズではさらに踏み込み、より大規模で、長期的に取り組む必要のあるバランス調整トピックについて深く掘り下げてみたいと思います。パッチノートやSNS、あるいは毎週MeddlerやScruffyが投稿している分量では語りきれない情報をまとめてみる試み、とも言えるでしょう。

このシリーズは、今後数ヶ月にわたり以下のスケジュールでリリースしていく予定です。

  • ブログ1 - 6月後半:昨年導入したチャンピオンバランスフレームワークの現状
  • ブログ2 - 7月上旬:新チャンピオン/VGUチャンピオン向けバランス調整の方向性
  • ブログ3 - 8月中旬:主要プロ大会(Worldsを含む)向けのバランス調整
  • ブログ4 - 9月上旬:ルーンとアイテムのバランス調整(およびプレシーズン2021の一部紹介)

チャンピオンバランスフレームワーク

昨年の「あるパッチの一生」キャンペーン中に紹介したチャンピオンバランスフレームワークは、LoLに存在する148体のチャンピオン向けに評価基準を定義し、プレイヤー帯を4つに分類し、各プレイヤー帯に強すぎる/弱すぎるチャンピオンが存在していないか一貫した基準のもとに監視・検出するフレームワーク(枠組み)です。プレイヤー帯の分類は「平均」、「高スキル」、「エリート」、「プロ」の4種で、特定のチャンピオンがいずれかのプレイヤー帯で強すぎる場合はナーフ(弱体化)、すべてのプレイヤー帯で弱すぎる場合はバフ(強化)の必要性があると判断する仕組みになっています。

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プレイヤー帯を4つに分けたのは、全プレイヤー帯のニーズを平等に扱えるようにするため、そしてチャンピオンのバランス調整を総体的に把握するための判断でした。またフレームワークの導入は、あるプレイヤー帯でのみ強すぎるチャンピオンの特定を一貫した基準に基づいて客観的に行なう助けにもなっています。すべてのプレイヤー帯で強すぎるチャンピオンは、「チャンピオン選択」画面で選べるというだけで試合の公平性を損なってしまいます。また強すぎるチャンピオンが複数体いれば、プレイヤーが彼らをピックする傾向も高まるため、チャンピオンの多様性も損なわれてしまいます。一方、すべてのプレイヤー帯で弱すぎるチャンピオンには強化を施します。これは私たちが、「すべてのチャンピオンを、少なくともいずれかのプレイヤー帯で有効な選択肢とする」ことを目指しているからです。

このフレームワークの導入によりチームは主観的な声を抑え、複数のパッチ間でも一貫性のある基準に基づいてバランス調整できるようになった上、私たちが把握できていないまま強すぎる/弱すぎるチャンピオンを放置する事態も防ぐこともできました。

導入からの1年間でフレームワークの一部には調整を施したものの(こちらについては後述します)、チームはほとんど例外なく定義したルールと手法に沿ってバランス調整を行ってきました。その結果、2019年と2020年現在までで「バランスしきい値を超えるチャンピオンの数」の比較結果に基づいて話す限りにおいて、ゲームはよりバランスの取れた状態になったと言えるでしょう。

またゲーム内のデータとは別の話になりますが、プレイヤーの皆さん同士が議論の中でチャンピオンバランスフレームワークに言及し、特定のチャンピオンに対するバフ/ナーフの意図を話し合う様子を見ることができたのは大きな励みとなりました。ただ「あるパッチの一生」キャンペーンが、これほど多くのプレイヤーに有益と認められたのは嬉しい限りですが、チームは同時にチャンピオンバランスフレームワークへの関心はもっと高められるはずだとも感じていました。

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パッチハイライトにバランスフレームワークを組み込んだ例(開発中)

このブログもその施策の一つですが、実は現在、多くのプレイヤーが目にする「パッチハイライト」画像に変更の経緯を組み込むアップデートも予定しています。もちろん組み込む情報量はまだ試験段階にあり、今後も多すぎない分量を評価・検討していきます。変更経緯をすべて説明したいからといって、パッチノートが毎回この開発ブログみたいになってしまっては意味がありませんから…。

最後にフレームワークについて明確にしておきたいことがあります。このフレームワークはバランス調整が必要なチャンピオンを特定する上で非常に有用なツールですが、各チャンピオンの個性を活かしながら問題を解決する方法までは教えてくれません。そして、そこから先はゲームデザイナーが解決すべき問題です(詳細についてはこちらの投稿をご覧ください)。

また、このフレームワークはチャンピオンの枠組みを超えたすべての問題を特定するほど万能でもありません。フレームワークの評価基準では「強すぎる」わけではないチャンピオンであっても、ゲームの健全性を損なう問題があれば、解決のために調整を加える場合もあります。たとえばユーミがフレームワークに引っかかったのはつい先日のことですが、終盤戦ハイパーキャリーヒーラーとしてのポテンシャルをどう調整するかについてはしばらく前から様々なアイデアが試されてきています。ユーミの場合は敵チャンピオンとの干渉が少ないため、このような状態になっているのです。

フレームワークに加えた調整

先ほども述べましたが、フレームワーク導入から1年のあいだには変更した箇所もいくつかありました。これについては変更後のパラメーターを強調表示した表を作成したので、こちらを見ながらお話ししていきましょう。

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まずは変更を加えた理由から。

バフ誘引要素との熾烈な戦い

導入後の数ヶ月間、チームはナーフよりもバフを多めに入れるようになっていました。当時はコミュニティーの間で「弱すぎるチャンピオンへのバフに慎重すぎるのでは?」という声が高まっていた時期だったので、誰もがこの「ちょっとした傾向」は問題ないと考えていました。しかしWorlds 2019の閉幕後、パッチのバフ増加傾向はピークを迎えます。最大の理由は、プロの試合が行われなくなったことでナーフを促す要因が通常よりも減少していたためでした。

そこで、私たちはフレームワークにいくつか調整を加えました。

  • 平均帯と高スキル帯の「強すぎ」しきい値をそれぞれ0.5%絞りました
  • エリート帯の「信号強度」を高めました(こちらについては後述します)
  • 勝率の変化予測とパッチ適用後の変化量を比較し、実際の変化量が予測を上回った場合は対象チャンピオンが「強すぎ」しきい値を超えていなくても修正を検討するようにしました
  • パッチの開発プロセスに、バフ過剰な傾向が認められると発動する「セーフガード」機能を新規導入しました。これはチャンピオンバランス調整の半分以上がバフになるパッチが連続することを発動条件とし、その場合は以下に示すナーフの実施を検討します
    • プロの各ポジションで最も存在感を出しているチャンピオン
    • 高スキル帯の各ポジションで最も活躍している(勝率とバン率の組み合わせが最も高い)チャンピオン

上述の新ルールは、直近でいうとオーン、カリスタ、トランドル、ジャンナ、アフェリオスなどのナーフに活かされています。いずれもチャンピオンバランスフレームワークのナーフ条件を満たしていませんでしたが、変更の妥当性は高かったと感じています。

エリート帯のオーバーホール

フレームワークに対する最大級の変更は、エリート帯向けの強すぎ/弱すぎパラメーターの調整でした。エリート帯は、プレイヤー全体の上位0.1%であるグランドマスター~チャレンジャーと定義されたプレイヤー帯です。しかしこの分類では「プロでも」強すぎるチャンピオンの一部を特定することはできても、エリート帯でのみ問題になるようなチャンピオンを特定できていなかったため、エリート帯のプレイヤーにとってフレームワークが事実上貢献していない状態になっていました。

具体的には、エリート帯における「強すぎるチャンピオンの検出基準」をバン率以外にも拡張するよう変更しています。新たに追加した基準は平均帯と高スキル帯でも用いられている「バン率に基づく勝率」です。しかし旧来のエリート帯基準では、試合数(サンプル数)が少なく正確な勝率を算出することができなかったため、結果的にエリート帯の範囲を上位0.1%から0.5%に広げることになりました。この変更により、現在エリート帯で「強すぎる」チャンピオンの評価基準は新たに設けた「バン率に基づく勝率」と従来の「バン率」の2つになっています。

この変更を加えたことで、現在はプロでは検出できなかったバランス問題がエリート帯でより効果的に検出できるようになっています。例えば、グレイブスがプロシーンで猛威を振るい始める前にパッチ10.11でナーフされたのはこの変更で検出できたためです。またタロンもパッチ10.11で、ウーコンもパッチ10.9で同様に検出されてナーフされています。

プロでのしきい値緩和

これまで話してきた他のプレイヤー帯と異なり、今年のプロでは検出基準を緩めています(つまりナーフを減らしています)。これはプロをターゲットにした大量のナーフが、他のプレイヤー帯にも影響を与えてフラストレーションを生んでいるのに、プロの試合においてチャンピオンの多様性が十分な改善を継続的に見せていない状況を鑑みての判断でした。ただし、プロシーンの重要な局面(Worldsなど)が近づいてきたら、今後もナーフ量は増加させることになるでしょう。いずれにしてもプロシーンのメタが固定されるのは誰も望んでいないので、プロの検出基準は今後も継続的に観察していくつもりです。

メタの多様性に関する目標

さて、本稿冒頭でチャンピオンバランスフレームワークにおける私たちの目標について触れました。この中でも、バランスの崩れたチャンピオンに対して一貫性のある基準に基づく対応を取るという点は重視していますが、実はそれ以上に重要だと考えているのが「あらゆるスキルレベルでより多くのチャンピオンが有効な選択肢となる状況を実現する」という点です。もちろん、平均帯とプロの両方ですべてのチャンピオンが強いと状況を作るのは難しいでしょうが、チャンピオンバランスフレームワークの適切な運用は「すべてのチャンピオンがいずれかのプレイヤー帯で強い状況」を生み出す推進力を与えてくれるでしょう(繰り返しになりますが、「バフが必要」フラグは「4つのプレイヤー帯すべてで弱すぎる」と判断された場合に立つようになっていますから)。

もちろんすべてのチャンピオンがいずれかのプレイヤー帯で活躍できるバランスが実現したとしても、それはチャンピオンの多様性がすべてのプレイヤー帯で確保された状態であるとは限りません。そこで「あらゆるスキルのプレイヤー帯で、より多くのチャンピオンが有効な選択肢となる状態を実現する」というこの重要目標を実現するため、チームは現在4つのプレイヤー帯それぞれ、そしてプロ以外で構成されるプレイヤー群(平均帯、高スキル帯、エリート帯)全体に向けた「メタの多様性に関する目標」を設定するべく取り組んでいます。

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チャンピオンが「有効な選択肢」だと評価されるのは、そのプレイヤー帯で対象チャンピオンが「弱すぎる」評価基準を上回っている場合です。つまりプロシーンにおける単発的なピックやバンは数に含まれません。このため私たちが現在「有効な選択肢」チャンピオンの目標値として検討している数値は、Worlds時点で存在するチャンピオンの総数を下回ることになるでしょう。

ここで示したのは(特にソロキューにおいては)長期的な目標です。プロシーンを基準にしたバランス調整が悪夢を生み出す・蘇らせるのはソロキューにおける多様性を改善しようと尽力する私たちにとって許容できないことですから、この目標を達成するための調整作業は通常のバランス調整よりも時間をかけて進められることになるでしょう。

なお、パッチ10.12時点(執筆時の最新パッチ)での状況は以下のようになっています:

  • 平均帯:81%
  • 高スキル帯:87%
  • エリート帯:30%
  • プロ:36%
  • ソロキュー:93%
  • 全体:98%

結論

チャンピオンバランスフレームワーク導入初年度の成果は効果的だったと言えるでしょう。数値上のチャンピオンバランスの状態は改善しており、特定のプレイヤー帯においてもバランスが崩れたチャンピオンがそのまま放置される確率は低減しています。

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最近になって直面することとなった新たな課題には、勝率52~53%でバン/ピック率が高いチャンピオンの存在です。直近の例ではエズリアル、カタリナ、ダイアナなどがこれに該当します。チーム内では検出基準を厳格化するかどうかも議論しましたが、最終的には厳格化しないと結論付けています。それよりもメタの多様性を高めたり、システム側の変更(次回プレシーズンのアイテムアップデート)で対応したりするほうがチャンピオン選択の問題解決策として優れていると判断したためです。

今回のブログシリーズがリーグ・オブ・レジェンドのバランス調整に取り組むチームの意図をより明確に伝える助けになれば幸いです。また、本稿がサモナーズリフトのバランス調整に関する最新情報を提供し、日々サモナーズリフトでプレイする皆さんと私たちとの対話を促進する良い機会になることを願います。それでは次回のブログでまたお会いしましょう。次回のトピックは、「新チャンピオン/VGUチャンピオンの調整」を予定しています。