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リー・シンのASU担当チームが語る開発の舞台裏!

皆さんどうも、再びASUチームです!今回は昨年依頼となるリー・シンASU(アート&サステナビリティ・アップデート)の進捗をお届けします。

今回、この開発ブログでフォーカスを当てるのは、リー・シンASUに携わる多種多様な職種の仕事内容です。ゲーム業界のアーティスト志望者&リー・シン愛好家の皆さんにはきっと楽しんでもらえると思います。

コンセプト

Megan “Ze Ocelot” O’Rourke - コンセプトアーティスト

スキンに一貫性を持たせるために

2011年にリリースされたリー・シンは今年、ティーンネイジャーの仲間入りを果たしたことになります。そしてそれほどの時が経ち、ベテランとなった彼は様々なビジュアルと世界設定を持つようになりました。しかし、時の流れは時に意図しない結果をもたらすもの。たとえば彼の場合には、スキンによってプロポーション(身体各部位の比率)が異なる、外見的特徴に一貫性がない、といった問題が生じています。この種の問題は、最終的にチャンピオンのリグや3Dモデルにも影響を及ぼし、ゲーム内でのプレイ感覚も変えてしまいます。

そこでコンセプトアート部門では、3Dモデルとリグ(モデルの動き方を制御するもの)の制作でプロポーションを統一していくために、ASU後のビジュアルを軸とした各スキンのコンセプトアートを制作しました。新たなリー・シンの肉体は格闘家(引き締まった筋肉質で、脂肪が薄く健康的)に近い姿ですが、古いスキンの一部はこれに合致しなくなったものも存在していたのです。プロポーションがスキン間で大幅に異なると、プレイヤーから見てキャラクター同一性が失われてしまいます。たとえば、神の拳スキンは明らかに他よりも筋骨隆々だったため、ASUでは少し控えめにする必要がありました。それ以外ではムエタイスキンも体型が違ったので、人体構造をベーススキンに寄せて調整しています。

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左からベース、神の拳、ムエタイ(ASU後)

こうした配慮は外見的特徴の一貫性でも同様です。肖像画のようなものですね。コンセプトアーティストは、チームの他のメンバーが手戻りなしで仕事を進められるように所定のテンプレートを完成させていきます。この段階では肌の色、顔の造形や肉付きなども明確に詰めていきます。スキン間でこうした特徴が一貫していると、これ以降に制作するコンセプトアートにも一貫性が生まれ、ひいては3Dモデルやイラストでも一貫性が保たれるのです。またスキンによっては、キャラクターの色や色相に調整を加えることもあります。リー・シンの場合は、混沌の闇スキンと神の拳スキンがこれに該当します。

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カンフー映画からボクシングまで、リー・シンにはどんなシチュエーションにも応えられる衣装が揃っています

微調整で済むスキン、オーバーホールが必須のスキン

リー・シンは多くのスキンを持つチャンピオンなので、「スキン1つにつき何箇所くらい変更点があるのだろう?」と気になる方もいらっしゃるかもしれません。実際のところその答えは…スキンによります。

スキンのアップデートは凄まじくワクワクする仕事である一方、一筋縄ではいかないこともあるのです。スキンのファンタジー(想起させるテーマやイメージ)が明確かつ強固であればアップデートも進めやすいのですが…。たとえば、プールパーティスキンはスキンのファンタジーとビジュアルが明確に確立されていたため、あまり変更を加えていません。

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完璧なプールパーティ

また、比較的新しいスキンも世界設定の完成度とビジュアルの一体感が高く、通常は変更点が少なめです。混沌の闇、至高のゲームなどはまさにこれでしょう。その一方、アイデンティティに欠けるスキンというのも存在します。たとえば従者スキンなどは謎の多いスキンで、単体で存在するスキンなのか、既存ユニバースに属する存在なのか分かりません。

このスキンのコンセプトを模索し始めた当初、私たちはまず「既存のユニバースの登場人物として、アイオニア出身である点を活かすことはできないか?」と考えました。そしてたどり着いたのが、元々の色を活かすという案でした。

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従者リー・シンの初期模索案

そうして最初に試したのが選択肢Aです。このコンセプトは形状・デザインの面ではいちばんハマっていましたが、ここで私たちは他のアイオニア出身チャンピオンと関連付けるという案を試すことにしました。そうしてストーリーや繋がりを探っていき、白羽の矢が立ったのがカルマです。彼女ならば従者というファンタジーとの相性もよく、カラーパレットを寄せることもできます。

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従者リー・シンの新ビジュアル

一方で伝統的な衣装リー・シンも古いスキンですが、こちらは雰囲気とカラーパレットをほぼそのまま流用し、微調整とクリーンナップのみ実施しています。

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伝統的な衣装リー・シン(ASU後)

ポニーテールの準備

今後、プレイヤーの皆さんから寄せられるであろう質問のひとつに、「なぜリー・シンにポニーテールを追加したのか?」というものがあります。実のところ、リー・シンの頭にはずっとポニーテールがありました。単にゲーム内では首周りにピッタリと張り付いていただけだったのです。そこで私たちは、今こそせっかくのポニーテールを活かそうと考えました。ポニーテールをよりダイナミックに動かせるようにすれば、リー・シンのデザインに魅力的なアニメーションとシルエット要素を追加できます。しかも従来のリー・シンは、ゲームプレイ面で「エズリアルや他の人間型チャンピオンと見間違えやすい」という視認性の問題を抱えていましたが、ポニーテールで独自のシルエット要素を追加できれば、プレイヤーにとってもリー・シンを識別しやすくなるという利点もありました。

また、ポニーテールの存在はベーススキンや既存スキンにとって有用なだけでなく、今後登場するスキンにも判別しやすいシルエットを与えてくれることになるでしょう。実際、今回のASUでもほとんどのスキンに自然な形でポニーテールを追加することができました。とはいえ一部のスキンでは不自然だったため、そうした場合には無理に追加しないようにしています。神の拳、龍拳、K.O.の各スキンにポニーテールが見当たらないのはそういった理由によるものです。

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左から神の拳、龍拳、K.O.(ASU後)

神の拳スキンは神の如き力をテーマとする人気レジェンダリースキンです。当初はポニーテールが付いていましたが、神の如き力を持つ修行僧らしさからは乖離する見た目になっていたため、最終的にはこのスキンのファンタジーにはシンプルなルックスが良いと判断しました。龍拳スキンは短髪のイメージが強烈で、ポニーテールを追加するとスキンのイメージが大幅に変わってしまうため追加しない判断を下しました。K.O.スキンは帽子からポニーテールが突き出てしまい、おふざけ感と違和感が強かったこと、そして何よりもトレードマークの帽子を犠牲にしたくなかったことから追加しない決断を下しています。このスキンの帽子を無くしてしまったら、全体のデザインが不完全になってしまいますから。とはいえ、今後登場するスキンでは開発段階からポニーテールをシルエットの重要要素として組み込んでいく予定です。

3Dアート

Tereza “Riot Teya” Rozumkova - キャラクターアーティスト

リー・シンの3Dモデル制作

3Dアートの観点から見ると、ASUの主な目標はまずチャンピオンの古いモデルとテクスチャをアップデートして現在のLoLの水準に引き上げることですが、それと同時に既存のプレイヤーが気に入っているチャンピオンらしさを維持することにも努めます。今回のリー・シンのASUでは、おそらく新旧バージョンを並べて見てもらうのが一番分かりやすいでしょう。左がASU後の新モデルで、右が旧バージョンです。

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リー・シンのASU後モデルと旧モデル

リー・シンの旧モデルは本当に古く、根本的な作り直しが必要でした。このため今回のASUでは旧モデルのデータやテクスチャはほぼ再利用せず、新たに作り直しています。これは現在のLoLのテクノロジー/アート水準でモデルを再構築しつつ、コンセプトアートを通じて生まれた刺激的な新アイデアを3Dモデルに落とし込んでいく仕事となりました。たとえば、姿勢と人体構造などは大幅な改善が見て取れるのではないでしょうか。また改良された衣装や髪型、そして美しくなったテクスチャなども最近のチャンピオンやスキンと並ぶクオリティになっています。

そして、リー・シンで敵をキルした後に笑いモーションを連打していた皆さんにも朗報です。ASU後の新モデルでは、ゾンビみたいな姿ではなくなっています!これまではどちらがデッドした側か分かりませんでしたからね。最後に笑うのは、彼だったようです。リー・シン、輝いてますよ!

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真実の愛なしには愛せない笑顔でした

ケイトリンとアーリのASUでは、レジェンダリースキンの3Dモデルにはほとんど手を入れませんでしたが、神の拳リー・シンの場合はプロポーションが他のスキンと比べて時代遅れになっていたため、例外的に大規模な改修を実施することにしました。新プロポーションと新テクスチャで装いを新たにしたリー・シンで、「神の如き力」というファンタジーをより一層体感してみてください。一方、豪嵐龍リー・シンはずっと新しいスキンなので3Dモデルを大幅に変更する必要がありませんでしたが、新たに追加された見事なポニーテールはきっと多くの人の目を引くことになるでしょう。

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リー・シンのレジェンダリースキン向けアップデート

ベースメッシュと3Dの持続可能性

ASUのSは「サステナビリティ(持続可能性)」の略で、ASUプロジェクトでも極めて重要な要素です。ASUでは、対象チャンピオン向けに今後作られるスキンの開発を円滑化するための環境整備も目指します。たとえば3Dアートの領域で、ASUの本制作が始まる前にベースメッシュを制作するのもこのためです。

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リー・シンのベースメッシュ

「ベースメッシュ」とは、チャンピオンのプロポーション、トポロジ、顔と身体のUVマップ、テクスチャなどを最新状態にした「裸」モデルです。ベースメッシュはASUでスキンをアップデートするときにも、ASU後の新スキン開発時にもベースとして用いられます。人体構造や顔の特徴などを決めるのは大変な仕事ですが、これを本制作前に決めることで、一貫したチャンピオンらしさを保ってスキンを制作していけるようになるのです。またベースメッシュ制作は、新機能(今回ならば追加されたポニーテールなど)を早期にテストする機会にもなるため、プロジェクト後半で発生しうる問題を予防する効果もあります。今後はこのベースメッシュがあるため、既存スキンでも今後制作されていくスキンでも「リー・シンらしさ」は一層強固になっていくでしょう。

テクニカルアート

Rhoam “KingRhoam” Johnson - キャラクターテクニカルアーティスト

テクニカルアーティストとは?

テクニカルアーティスト(略してTA)とは、実はかなり広範な意味を持つ単語です。たとえば私はキャラクターテクニカルアーティストですが、これは私が「キャラクターの内側を担当するアーティスト」であることを意味します。もちろんリー・シンの腎臓を3D化しているわけではありません。私の仕事はチャンピオンの3Dモデルの「骨組み(スケルトン)」を構築し、キャラクターが意図した通りに動くようにすることです。別の言い方にすると、スケルトンにコントロール(挙動を制御するパーツ)を配置し、アニメーターがチャンピオンたちに生命を吹き込めるようにするのが私の仕事です。それでは続いて、この仕事のおもしろいところを一緒に見ていきましょう!

チャンスに目を光らせる

まず私たちは、プレステージ混沌の闇リー・シンの胸に付いている目玉は、もっとおもしろくする余地があると考えました。たとえば、この目が動いたらどうでしょう?せっかく胸に巨大な目があるのに、動かないなんて惜しすぎます。

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見える…見えるぞ…

武術を極める

今回、リー・シンのリグをアップデートしたことで、アニメーターはより迫力ある武術的ポーズを再現しやすくなりました。今後は参考資料をこれまで以上に熱心に収集し、ポーズの持つリアリティを一層高めていきます。

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ヌンチャクが1本…ヌンチャクが2本…ホアー!

今回のASUでは、胸と腰にも独立したコントロールを追加し、自慢の筋肉をしっかりと表現できるようにしました。今後のスキンでは、アニメーターがこれらコントロールを最大限活用し、一層パワフルなリー・シンを見せてくれることでしょう。

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新しいリグを自慢気に披露するリー・シン

完璧なポニーテール

さてさて、私たちのスーパーなリグシステムが活躍するのはここからです。広範囲リググループ(白色)でポニーテール全体のシルエットを制御し、個別コントロール(灰色)で細やかなポーズ指定を可能にすることで、アニメーターがリー・シンらしい力強さと個性を備えたアニメーションを作成できるようになりました。こうして完成したのが、下のアニメーションです!

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アニメーション

Sean “Riot Redepoka” Yeung & Einar “Riot Beinhar” Langfjord - アニメーションアーティスト

アニメーションのインパクトを強化する

リー・シンの根底にあるインスピレーションは、これ以上無いほど明確かつ強固なものです。だからこそ、これまでの彼の「必殺技」たちには少し不満足な点がありました。13年という歳月を経たスキルのアニメーションには、卓越した武術の使い手らしい大迫力の…床滑り(アニメーションと移動のズレ)がたくさん存在していたのです。そして、私たちはこのASUを好機と捉え、格闘家という彼のファンタジーを進化させるべくリコール、スキル、通常攻撃などのアニメーションをアップデートすることにしました。

おそらく今回のASUをご覧になると、各種攻撃が刷新され、インパクトと満足感が強化されている点に目が留まるのではないかと思います。今回私たちが試みたのは、リー・シンのパンチに重量感を加えることです。そのためには、各種攻撃のタイミングにいわゆる「タメツメ」を加える必要がありました。ここでいう「タメツメ」とは、移動とポーズのタイミング/位置を不規則的にすることで、表現を強調する手法を指します。

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リー・シンのQとEはどちらもぼんやりとした「2ポーズ」アニメーションで、彼を象徴するスキルであるにもかかわらず機械的で床滑り感がありました。そこで今回のアニメーションアップデートでは、スキルのアイデンティティを保ちつつも重量感と高度な武術感を付け加えています。以下に並べてみたので、ぜひASU前後で比較してみてください。

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蝶のように滑り、リー・シンのヒットボックスのようにズレる

ズレという点でもう一つ大きな問題となっていたのが、一部アニメーションで3Dモデルとヒットボックスの位置がズレすぎていたことでした。たとえば待機アニメーション、ダンス、挑発のアニメーションは、アニメーション中の3Dモデルが固定ヒットボックスから大きく離れており、プレイヤーの混乱を引き起こすことがありました。スキルショットを狙って撃っても、リー・シンがすべてを映画『マトリックス』のように回避してしまうのです。そこで私たちは「熟練の型稽古を見せるリー・シンがヒットボックスから外れないようにする」という極めてシンプルな任務に取り組みました。

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新しい待機アニメーションのひとつ。フラフラせずスタイリッシュになりました

スタイリッシュなスキンを作る

ASUといえば、スキンラインナップの総点検は欠かせません。今回のリー・シンは合計17のスキンを持ちます。今回は新たなシルエット要素を複数追加したため、そうした要素が使用スキンにかかわらず一貫性と説得力のあるアニメーションを見せるようにする必要がありました。特にポニーテールについては、どんな状況でアニメーションが再生されても身体や地面にめり込まないようにチェックを重ねています。またリー・シンには、独自アニメーションセットを持つスキンも5種類ありました(うち4種は新モデルへの付け直しも必要でした)。ポニーテールをバグ、視認性、めり込みの潜在的リスクから守ることが重要な仕事だったわけです。

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またポニーテール以外でも、一部のスキンはアニメーション調整の恩恵が大きいと考えています。このほか、元々のスキンが持っていたファンタジーを進化させるイースターエッグを仕込んだスキンもあるのでお楽しみに!

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ヤシの実とヌンチャク、選ぶならどっち?

VFX

Yuchen “Riot Applesoda” Lin - VFXアーティスト

ASUのVFX制作における主目標は、旧VFXを現在のLoLビジュアルの水準まで引き上げつつ、ゲームプレイの明瞭性を高めることです。10年以上の歳月を経てきたリー・シンのVFXは、昨今のチャンピオンたちと比べるとかなり「時代遅れ」になっており、プロジェクトはかなりの大仕事になりました。

まず着手したのが、デカール(VFXが地面に残す絵柄)とシンボルデザインの刷新です。これはVFXに新鮮味が出ただけでなく、デザインをシンプルにすることでゲームプレイの明瞭性を高める効果もありました。旧バージョンは形状が複雑で、ゲーム中に混乱を招く要因となっていたので、この領域には大いに改善の余地があったのです。

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Qについては視覚的ノイズとなっていたデカールの4つの月のシンボルを削除し、デザインを円形に変更。Qが命中したかどうかを判別しやすくしました。また飛翔体もオーブ形に曲線2本を添えたデザインに変更し、「リー・シンの視覚言語」を確立。他のスキルと混同されにくくしました。

そして旧リー・シンのWは、シールドの周囲を複雑な形状のオブジェクトが回転していたせいで視覚的にやや「うるさい」状態でした。また全体的なスタイルとしても、現在のLoLと見比べた時にやや古臭い面がありました。ASU後もシールドの周囲には3つの図形が回っていますが、これらはシールドの一部として描いてあり、パーティクルと組み合わせることで強力かつスピリチュアルな印象を作り出すようにしています。

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紙のシールドに頑丈なイメージはありませんよね

こうしてスキルのVFXが完成したら、次は各スキンのVFXです。彼のスキンは現在のLoLの水準に満たない古いものが多かったので、今回は大半のスキンのVFXをアップデートしました。

ここで難しかったのが、スタイルの違いでした。ボクサー、パンチャー、あるいは別の格闘技…こうしたスタイルの違いは、スキンのファンタジーとしてしっかり表現されなければなりません。つまり、VFXで多種多様な格闘技を表現するという目標と、長年のリー・シンメインの皆さんに自然なプレイ感覚を届けるという目標を同時に達成する必要があったのです。またスキンの中には、K.O. リー・シンのように明確なテーマが確立されていないものもあり、そうした場合にはゼロから独自のVFXを作り上げる必要がありました。

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新しいK.O. リー・シンが飛ばすのは、本物のボクサーさながらの強烈なパンチです

また司令塔リー・シンのケースでは、当時は今ほどスキンテーマが確立されていなかったという経緯を踏まえ、最終的に過去のスキンテーマを再構築しています。現在のビジュアル水準に引き上げることと、スキンが持つ元々のテーマを保つこと。両方やらなくちゃならないのが辛いところです。

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司令塔リー・シンが放つのは、サッカー/フットボールのボールです

豪嵐龍リー・シンという難敵

豪嵐龍はリー・シンのスキンの中でも特に人気の高いスキンですが、人気の理由の一端はおそらく龍が出現するVFXでしょう。一方でこの龍のVFXには、視認性が下がる、ゲームプレイの明瞭性に影響しているという意見も寄せられていました。

そこで今回のASUでは、豪嵐龍のVFXを改善するという課題に取り組みました。目指したのは、ゲームプレイの明瞭性を改善することと、このスキンが元々持っているクールさを維持することでした。最初の変更は通常攻撃の明度を下げることでした。VFXが明るいと、それを見たプレイヤーがスキル攻撃だと捉えてしまいますし、「視覚的な情報」から判断して実際よりも強い攻撃だと考えてしまうので、明度を下げることが混乱予防につながるのです。また固有スキルのVFXは、攻撃する手だけではなく両手が光るようにし、固有スキルが上がっているかどうかを即座に判断できるようにしました。この他には、Qの形状もASU後のベーススキンに合わせて新調しています。

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これで敵・味方どちらのプレイヤーにもリー・シンがQを使ったかどうかがよりわかりやすくなるでしょう。この他には各スキルの煙エフェクトも減らし、全体的なノイズレベルを引き下げています。

最終的には、従来の豪嵐龍スキンらしいクールなVFXをすべて残しつつ、視覚的な明瞭性と分かりやすさを向上させる表現にできたのではないかと思います。

オーディオ

Andrew “Dream Theater” Grabowska - サウンドデザイナー

盲目の修行僧が響かせる音

旧リー・シンのスキル効果音──特に命中時の音──はかなり似通っていて、スキルごとの際立った個性のようなものがありませんでした。特にEとRが命中したときの効果音などは、再生時の音量以外ほぼ同一でした。また、響掌と共鳴撃の命中時効果音が同時に再生されると、効果音同士が似通っていることもあり、各種スキンで共鳴撃の重要度を表現するのが難しくなっていました。今回のASUでは各スキルの実装状態とゲームデザインを再考し、各種スキンでこうした問題を解決しようと試みています。

今回のASUでは効果音を全面的に再設計していますが、再設計に際してはスキルごとの個性をもっと確立させるという目標を追求しつつも、リー・シンを愛するプレイヤーの皆さんが大切にしている本質、プレイ感覚、ゲームプレイの視認性などを維持するよう最大限努めました。リー・シンのスキル効果音はアイオニアの精霊魔法的な音に寄せつつ、燃え盛る龍魂の印象を重ねています。QとWはアイオニア/ショウジン寺の僧らしい「己を律する心」を反映した音、Rはむき出しの攻撃性をたたえる龍魂を反映した音になっているので、ぜひ聞いてみてください。

リー・シンなら、音だけで分かりたい

今回のASUで掲げたもうひとつの目標が、リー・シンがQ、W、Eを再発動できない場合にサウンドで分かるようにすること(特定のゲームプレイの可否を音でも分かるようにすること)でした。たとえば今回は、響掌のマークが消えたことを示す効果音を追加していますが、これには共鳴撃がもう発動できないことを知らせる役割があります。ちなみにこれまでは、マークの効果音がフェードアウトしていくだけでした。

また従来は破風が敵に当たったかどうかを音だけで判断できなかったので、今回のASUではヒットした敵から命中音が再生されるようにし、再発動で縛脚のスロウを付与できるかどうかが音で判断できるようになっています。また、ASU前の縛脚ではリー・シン側とスロウ付与対象の敵側で同じ効果音が再生されていましたが、ASU後は破風の発動時に専用の効果音がリー・シンから鳴り、縛脚でスロウを付与した場合には、ヒットした敵から別の専用効果音がデバフ効果終了の瞬間まで再生されるようになっています。

オーディオのサステナビリティ

今回のASUでは、リー・シンの通常攻撃に「攻撃対象の材質によって音を変える」処理を可能にするマテリアルレイヤーが追加されています。リー・シンがタワーを殴れば石を殴る音が、レッドブランブルバックを殴れば木を殴る音がするわけです。このシステムはモジュール式設計が採用されており、各種スキンでも簡単に同じ技術/サウンドを扱えるようになっています。また破風の衝突音も同様に、リー・シンが立っている地面の種類によって鳴らす音を変えられるように地面のマテリアルレイヤーを追加しました。今後はリバー内で破風を放つ時、大きな水しぶきの音が聞こえるはずです。

シールド付与時の効果音も以前は自己シールド時と味方付与時で同じ効果音でしたが、そのせいでダッシュしてシールドを付与した時に効果音が重なってしまい、意図した音が鳴らないことがありました。これも個別の効果音を用意したため、ASU後は自身と味方にシールドを付与すると効果音が重なってハーモニーを奏でるようになっています。

エンジニアリング

Matthew “spooty” Becker - ソフトウェアエンジニア

盲目の修行僧を表現するスクリプト - 「目など見えなくとも、ダメなコードは匂いでわかる」

リー・シンは盲目の修行僧として長い歳月を戦い抜いてきました。しかしその結果、彼を支えるスクリプトは時間という波に揉まれて粗が見えるようになってきました。ASU対象チャンピオンのスクリプトをアップデートする場合(リー・シンのように高度な腕前表現が可能なチャンピオンの場合は特に)、その最大の目標は「基本的な機能性を残しつつ、現在までに作られた各種新ツールを最大限活用する」ことになります。リー・シンのスクリプトを現代化するメリットはいくつかあります。1つ目は、スキン固有のロジックとコア部分の挙動を切り分けられること。2つ目は、スクリプトの基本ロジックをシンプルに整備し直し、アーティストとゲームデザイナーがより創造力を発揮させられるようになることです。でもそれって、具体的にどんな効果があるんでしょう?そこで以下では、開発チームとプレイヤーにとって何が変わるのかに触れてみたいと思います。

ステップ1:基本に立ち返る - 「スキン固有の挙動を絶対に含めない」

理想論では、チャンピオンの基本スクリプトにはスキン固有のロジックを含めるべきではありません。スキン固有ロジックを基本スクリプトに含めてしまうと、使用スキンに関係なく毎回チェック/処理が実行されるというムダが発生してしまうからです(ごく一部のスキンでしか使用しないのに、どのスキンでも毎回チェック/処理が入る)。しかもその後は、新スキンに新機能(基本スクリプトでは実現できない機能)を追加するたびに、そのスキン用の追加チェックやカスタム挙動を追加しなくてはならなくなります。実際、リー・シンは大量のスキンを持つチャンピオンであるため、その基本スクリプトにはかなりの数のスキン固有処理が含まれていました。

しかし幸いなことに、リー・シンのリリース以来、LoLの開発環境には無数の改善が重ねられてきています。それらを活用することで、今回のASUではかなりの数のスキン固有ロジックを対象スキン固有のスクリプトに移動することができました。またそれ以外のロジックについてもスクリプト側での処理を排し、よりデータ駆動型のアプローチに切り替えています。これで不必要に冗長になっていたチェックを削除し、アーティストとゲームデザイナーが旧スキンのASUを進めていく土台となる環境を大幅に整理・整備することができました。これは今後登場するリー・シンの新スキンを開発する上でも、ビジョンを実現する役に立ってくれるでしょう。

ステップ2:クリーンアップの時間 - 「そしてデータ駆動型へ」

こうして特定スキン固有のロジックを基本スクリプトから切り離したわけですが、それもリー・シンのスクリプトをクリーンアップしてデータ駆動型に移行するという大きな取り組みの一部でしかありません。今回のASUでもスクリプトのハイレベル構造にはほぼノータッチですが(先ほど述べた「高度な腕前表現」を保つため)、ローレベルの具体的な実装については精査を進め、適宜アップデートしました。また精査していく中でASU前のリー・シンが抱えていたバグもいくつか発見できたため、ASUに合わせて修正もしています。そしてご安心を。今回は過去の失敗に学び、皆さんがスキルセットの一部だと捉えている「機能」ではなく、紛うことなきバグだけを修正し、その上でトリプルチェックも実施しています!

しかし、リー・シンのスクリプトを「データ駆動型にする」とはどういう意味でしょう?そしてなぜ私は、これを大事なことのように何度も繰り返しているのでしょう?答えを要約すると、「データ駆動型にすることでアーティストとゲームデザイナーのできることが広がり、その結果としてより素敵なスキンを作れるようになるから」でしょうか。今回、私たちはツール&エンジンチームが長年改善を重ねてきた開発環境を最大限に活用し、リー・シンのスクリプトにハードコーディングされていた大量のデータを切り離し、アーティストとゲームデザイナーがよりディテールにこだわったゲーム作りを進められるようにすることができました。もちろん、リー・シンの核となるゲームプレイ要素は保持したままで。つまるところ、創造の自由度を高め、バグを減らすことができた。それこそが全員にとってハッピーな結末なのだと思います。


こうして今回、新しい姿のリー・シンをサモナーズリフトに送り出すことができて、チーム一同大変うれしく思っています。ASUの実装はパッチ14.9の予定ですので、どうぞお楽しみに!