ASUの前方偵察
皆さん、こんにちは!ASUチームが戻ってきました。今回はリー・シンとティーモの進捗について紹介していきます。今年後半にも改めて進捗報告を投稿する予定ですが、今回はコンセプトアート、テクニカルアート、アニメーション担当の各メンバーからASU(アート&サステナビリティ・アップデート)の具体的な内容について少し紹介してもらいます。
本題に入る前にリリース時期の話題を。両キャラクターともスキンの数が膨大であるため変更になる可能性はありますが、現在リー・シンは2024年前半、ティーモは2024年後半のリリースを予定しています。
思ったよりも遅いなと感じる方もいらっしゃると思いますが、各ASUでは社内/プレイヤーの品質水準を確実にクリアしていくよう努めています。そのために必要な期間としてご理解いただければ幸いです。というわけで今回は、新しいリー・シンとティーモを披露したい気持ちをぐっとこらえ、ASUというプロジェクトの実際に目を向けてみます!
リー・シン
修行僧の"近代化改修"
Megan
“Ze Ocelot” O’Rourke - コンセプトアーティスト
ASU担当のコンセプトアーティストが先に固めていきたい要素のひとつに、"プロポーション(身体各部位の比率)"があります。プロポーションはキャラクターのシルエットや特徴の決定要因であるだけでなく、スキンのコンセプト制作難易度を大幅に下げ、統一感も高めてくれるからです。
今回のASUプロジェクトでも、リー・シンのプロポーションを維持することは絶対条件でした。引き締まった筋肉質の身体だけれども、脂肪はなく細身。もちろん、ある程度"手を入れる余地"はありましたが、かといって大きく違う要素を追加するとリー・シンというキャラクターから外れてしまいます。
他には弁髪も強調したいと考えました。頭/肩にくっついて動かないという制約から解き放つわけです。動く弁髪はシルエット全体を強調するだけでなく、アニメーションやデザインに活かせるパーツも増やしてもくれます。
衣装の面では、あまり元々のデザインから離れたくないと考えていました。VGUと違い、ASUの目標は"チャンピオンの総合的なルックスを保持しつつ、現在の品質水準を満たすディテールを調整する"ことだからです。新デザイン案の大部分は『ワイルドリフト』のデザインをベースとしていますが、腰まわりの布を重なり合うように描き加えたり、衣服/装飾品の縫い目や装飾をより曲線的・有機的に調整したりと、アイオニアの雰囲気を強調する細かなディテールも追加しています。
リグの刷新
David
“Riot Duncnasty” Jeka - テクニカルアーティスト、リギング:
ここではリー・シンとティーモのリグで修正するポイントを紹介しようと思いますが…まずは"そもそもリギングって何?"という疑問に答えておきましょう。シンプルに要約すると、リギングとは"アニメーション追加前の手順"です。具体的には複数のジョイント(関節)でキャラクターの身体構造を再現し、組み上げたジョイントをチャンピオンにくっつけ(この工程を"スキニング"と呼びます)、アニメーターがアニメーションを製作する時に使う"コントロール"(制御パーツ)を追加します。よし、説明完了!というわけで、続いてはリー・シンのリギングで今回修正しようとしているポイントをお話ししましょう。
旧リグを見ながら修正計画全体をお見せするにはまだ少し時期尚早なので、今回は修正を目指す問題をいくつかピンポイントに紹介します。
まず、リー・シンの現行ベースリグはアニメーターの頭痛の種となっています。コントロール(先述の制御パーツ)の構造が合理性を欠いていて、左右どちらに動くのか見ても分からず、あるべき方向にもピボットせず、おまけに首も…そう、首…首を取り上げないわけにはいきません。
実はリー・シンの首の動きには、長年にわたり様々な工夫を用いてきました。司令塔リー・シン以降のスキンでは、首を適切な位置にするために加算アニメーションを追加せざるを得なかったほどで、それでもなお及第点に届くか否か、といった仕上がりだったのです。今回はこれをバッチリ修正していきます。ミーム/ネタにできるのも今のうちですよ。
というわけで、これまでアニメーターに提供されていたツールではパワフルなポーズを作るのが非常に難しく、おまけにリー・シンのスケルトンも状況を悪化させる材料となっていました。太もも上部の位置が低すぎたし、上腕は離れすぎていたし、鎖骨も低すぎる上に交差していた(そういうリギング手法もありましたが、古いやり方です)。解剖学的にも技術的にも同意しかねる部分が多かったのです。今回はこの問題をすべて修正し、さらに改善も加え、アニメーターがよりダイナミックなポーズを作っていける環境を構築します。また彼の代名詞ともなっている弁髪も、色々とできるようにしていく予定です。
生命感と躍動感
Einar
“Riot Beinhar ” Langfjord & Sean “Riot Redepoka” Yeung -
アニメーションアーティスト
多くの人に愛されているASUチャンピオンを担当する時、私たちアニメーターが目指すのは"クオリティーを現在の水準に引き上げる"こと。これを達成するには、次の3要因が重要になってきます。
- ゲームプレイの感覚
- ゲームプレイのわかりやすさ
- キャラクターとの共感性
各要因の重要度はキャラクターによって変わります。たとえばアーリのASUでは、九尾の狐という彼女のイメージを確立させるために、"複数アクション間で尻尾をスムーズに動かすこと"を特に重視しました。一方でケイトリンの場合は、高度な訓練を受けた保安官/ライフルの名手という印象と、感情移入しやすい個人的特徴(昔の彼女には大きく欠けていた要因です)を生み出すことに注力しています。この3つの要因はどのキャラクターの時にも考慮しますが、究極的にはそのチャンピオンが持つゲームプレイ、個性、共感性が方向性を決定します。
ではこれらの目標を踏まえた上で、リー・シンのアニメーション目標を見てみましょう。
アニメーションに関して言えば、リー・シンは長い間大きな問題を抱えていました。ベースのシルエットに大きな特徴がないために他の男性人間キャラクターとの区別が付けづらく、Qスキルの飛行アニメーションもエズリアルやブランドのスキルと似通っており、全員が印象の異なるスキンを使用している場合には特に見分けづらくなっていたのです。今回リー・シンのシルエットに弁髪を追加しているのはまさにこの"他のチャンピオンと区別できるようにする"ためです。
またリー・シンには、エモート/待機アニメーション中(ゲームプレイのロジックから外れた状態)のヒットボックスが不明瞭という問題もありました。新規プレイヤーがリー・シンにスキルショットを撃つ時に、狙う先が分からない状況が発生していたのです。
対処すべき問題は他にもあります。リー・シンのプレイ感覚です。数千時間をかけて習熟に励んできたプレイヤーは現在のプレイ感覚を体に記憶させています。一方でベーススキンのリー・シンには、攻撃がフワフワした印象であるという重大な問題があります(体の動きが実際の格闘技に即していないことも重大ですが)。このような経緯から、今回のASUでは真の武人/修行僧らしく感じられるように変更しつつも、リー・シンをメインとするプレイヤーが愛好してきたプレイ感覚は保持したいと考えています。
チームもアイオニアの格闘技をもっと掘り下げたいと熱望しており、リー・シンをアイオニア最強の格闘家として描くためのインスピレーションを求めて、あるいは助言を求めて、実際の格闘家にも相談しています。
また固有アニメーションセットを持つ特別なスキン(ムエタイ
リー・シンやK.O.
リー・シンなど)の追加開発工程も進行中なので、こちらもぜひ楽しみにしていてください。両スキンの人気要因は独自のプレイ感にあるため、ASUでも元々のプレイ感を保持するよう全力を尽くしていきます。とはいえこれらのスキンにも、ベーススキンに対する改善のメリットはしっかりと反映されてくるでしょう。
では続いて、ティーモの進捗をのぞいてみましょう!
ティーモ
恐怖の新たな顔は
Megan
“Ze Ocelot” O’Rourke - コンセプトアーティスト
上でも述べた通り、チャンピオンのシルエットと特徴を決める上で"プロポーション(身体各部位の比率)"は極めて重要な役割を果たします。そして周知の通り、ヨードルのプロポーションは彼らの特別さをひときわ強く表現する要素です。
ずんぐりした体型はティーモの象徴的な特徴ですが、今回のASUでは少し手足を伸ばし、もう少しだけ動き回れるようにしていきます。ASU後のティーモは少しだけ背が高く、リーチもちょっとだけ伸びたように見えることになりますが、ヨードルらしいモフモフボールのような印象はそう変わることなく残ることでしょう。
なおティーモのデザイン自体に特に悪い点はないので、「高画質版ティーモ」という表現が一番正確かもしれません。LoLの象徴的キャラクターの1体であるティーモのゲーム内の姿にようやくアップデート!ディテールやアクセサリーがより明確になり、色彩/トーンが調整され、部位/形状の視認性もアップ!といった感じです。
衣装以外では、表情変化を可能にする新しいリグも要注目です。以下は、テクニカルアーティストの参考用に描いたティーモの様々な表情です。ニュートラル、幸せ、笑い、困惑、悲しみ…作る可能性のある表情が分からなければ、リグの要件を洗い出せませんからね。また、現在のティーモは何をしてもほとんど動かないので、スキル使用時のポーズもいくつか描いてみました。チャンピオン1体あたりの表情の数には制限がありますが、こうしたポーズの模索案が後にアニメーターのインスピレーションになることもありますから。
自分の描いたティーモがゲーム内で命を吹き込まれていく様子を見るのは本当に楽しい経験でした。これから既存スキンや新スキンに取り組んでいくのが今からとても楽しみです。
準備はできてる
David
“Riot Duncnasty” Jeka - テクニカルアーティスト、リギング:
ASU担当のテクニカルアーティストは通常、対象チャンピオンの"仕上がりが荒い"部分を探すのですが、これはすぐに間に見つかります。長い年月を経てきた部分や、現在のLoLの水準に達していない要素ですね。では今回のASUで修正する、ティーモの"仕上がりが荒い"部分とは何だと思いますか?
ひとつはスケールとプロポーションです。まずは手足を他のヨードルたちと同程度まで長くし、その手足をしっかり動かす。私たちはこの身体構造の変更を通じ、ティーモにより明確なシルエットと個性を付与したいと考えています。これについてはチームのコンセプトアーティスト、モデラー、アニメーター達が本当にグッドジョブでした。優れたアーティストに囲まれた環境では、良いリグを作るのもはるかに簡単になるのです。
また、手足が長くなったことでジョイントが増え、モーションの幅も広がっています。たとえば帽子に付いている房やバックパックも動かせます。リグ制作にあたっては、アニメーターが総合的に制御しやすいリグ、少なくとも下の"黄色一色のぐちゃぐちゃリグ"よりも良いリグを目指しました。
この他にはフェイスリグも追加し、顔の表情で性格を表現できるようにしていきます!エモート連打との相性は抜群でしょう。
もっともっとヨードル
Einar
“Riot Beinhar” Langfjord & Sean “Riot Redepoka” Yeung -
アニメーションアーティスト:
ティーモを現在のLoL水準に引き上げる上で設定した目標のひとつに、ティーモのアニメーションキットを他のヨードルたちと並ぶレベルまでアップデートする、というものがありました。ティーモのアニメーションには近年のヨードルに見られる"弾むような魔法的な要素"が欠けていたからです。トリスターナ、ヴェックス、ハイマーディンガーを見れば、そのビジュアルや雰囲気のクオリティーがティーモよりも高いことにすぐ気づくことでしょう。というわけで、ティーモにバンドルシティの魔法を注入することは、アニメーターの私にとって主目標のひとつとなりました。
今回特にチームがワクワクしていたのがティーモの表情を追加する点です。現在のティーモは顔が動きませんし、ゲーム中に顔が見えることもほとんどありませんからね。
しかし、アニメーション改善を進めていたチームはひとつ大きな課題に突き当たります。新たなティーモを作るには、他のヨードルと重複しないアニメーションのネタが必要になるのです。"ヨードルに見える"のに"紛れもなくティーモ"。これを両立させるには、他のヨードルの動きを研究・比較した上でティーモの動き(注:すべてのスキンを含む)を決める必要がありました。プレイヤーがキャラクターを認識する要因は多数存在します。3Dモデル自体のシルエット、特定ポーズのシルエット、動きの活発さ…挙げていけばきりがありません。
そしてこういった要素はすべて精緻に調整し、ティーモだとキッパリ見分けられるようにせねばなりません。どのような状況においても、ケネンやルル、クレッドなど他のヨードルと見間違えないようにしなくてはならないのです。これをベーススキンで達成したら、次は…彼の全スキンで同じことを徹底します。ティーモの個性を保護し、今後の開発難易度を長期的に抑えていくためにも、この作業には少し余分に時間をかけて徹底的に進めていきます。
それから、記事を終える前にひとつ。読者の中には、ジャックスのアップデートが気になっている方もいると思います。現時点で、残念ながらジャックスの進捗についてお知らせできることはありません。ですが、こちらも一定の進捗が出揃い次第、お知らせする予定です!
以上、ここまでお読みいただきありがとうございました。LoLを代表するチャンピオン2体のASUに対する期待度は高まったでしょうか?今年中にはもう一度進捗報告をする予定ですのでお楽しみに。それでは、サモナーズリフトでお会いしましょう!