民話の周波数
編集者より:「精霊の花祭り」開発の舞台裏の紹介も、今回で最後になります。これまでの記事もきっとお楽しみいただけたことと思います。まだ読んでいないという方は、この「精霊の花祭り」のあらゆる要素に迫った「精霊の花祭りができるまで」や「精霊の契り 製作秘話」、「アイオニアの精霊を訪ねて」を是非ご覧ください。
「精霊の花祭り」というイベントの大部分は、主役となる精霊たちを中心に展開します──絡みつくカシオペア、イケメンと化したスレッシュ、そして大声の狼、などなど。彼らのアートやストーリーをLoLに持ち込むにあたって、サウンドデザイン担当チームは1つの大きな疑問にぶつかりました。「…精霊が立てる音って、一体どんな音なんだ?」
「精霊の音」の方向性を決める
「精霊の花祭りについては、まず最初に全員でひとつの部屋に集まってスキンのアートに目を通し、そこから得られたインスピレーションについて意見交換をしたんです」とサウンドデザイナーのDaniel “Riot KDan” Kimは説明します。「最初はイベント全体の核となる雰囲気について、それから『アカナ』と『カンメイ』を差別化する上で使えそうな個々の要素について話し合いました」
この時、サウンド担当チームにはいくつかの制約が課せられていました。アカナとカンメイは別々の存在ではあれど、精霊の花祭りではコインの裏表のように密接不可分な関係であることを感じさせる存在でもあること。それと同時に精霊の花祭り全体で一貫した、独特な雰囲気も出さなければならなかったのです。チームは以前にも「三国武神」や「ブラッドムーン」、「不滅の旅路」で東アジアの文化にインスパイアされた世界を訪れていたことから、今回の「精霊の花祭り」ではそれらとはまた違う、独自の音を作るための何かを探す必要があったというわけです。
「精霊の花祭りのスキンでは、東アジアの伝統楽器を数多く使用していて」とサウンドデザイナーのOscar “Riot Zabu” Coenは語ります。「優雅で透明感のある、複数の音の配合を変えることで、アカナとカンメイを差別化することができました。しかしそれ以上に大きく異なる部分があります。カンメイは幸福感があり落ち着いた、調和の取れた音を備えており、その一方でアカナの持つ音はやや和音が乱れている点です。また、両者ともに呼吸音を発する箇所があるんですが、アカナのそれが金切り声に近いのに対し、カンメイの方は穏やかな吐息のような感触になっています」
どちらかといえば邪悪な側ではあれど、やはりアカナも美しい存在なのです。「ブラッドムーン」や「混沌の闇」では、やや耳触りな叫び声をサウンドデザインに利用していましたが、「精霊の花祭り」という傘の下で耳に入る音はすべて心地よいものにする必要がありました。
こういった点を踏み台に、サウンドデザイナーたちは実際の作業へと飛び込んだのでした。
今回の精霊の花祭りのために用意され、サウンドデザイナーたちが愛と情熱を注いだチャンピオンは10体にものぼるため、今回の記事はチャンピオンごとに内容を分割してお送りします。お好きなチャンピオンの部分からお読みください。
「リヴェンメインのSubredditを見て参考にしました…」
精霊の花祭りで最初にサウンドデザインの対象になったのは、リヴェンでした。そしてあらゆる創作において言えることですが、まず最初のラフを起こすのが一番大変なのです…
「リヴェンの作業を始めた時、まず彼女のコンセプトアートをイメージソースにしました」とRiot KDanは言います。「新スキンでは紫が特に多く使われていた[1] ので、それを効果音を作る上でのベースにしました。初期のQの効果音がヴォイドっぽくなりすぎたのはそのせいです。カサディンのEと瓜二つになってしまいました。幸いにも他のチームメンバーの助けもあってサウンドパレットに沿う方向に修正できましたが、その途中もさらに何度かトラブルに見舞われました」
LoLのチャンピオンの効果音をデザインする上で特に大変なことの一つが、その他の音と紛らわしいものにならないように注意することです。そのためにも、そのチャンピオンを専門にしているプレイヤーの動きを理解しておくことが必要不可欠となります。そしてプレイを学んでいくにつれ、Riot KDanはリヴェン専門家たちがやっていることの高度さに気がつきます。
「精霊の花祭りスキンを手掛けるまで、リヴェンメインのプレイヤーがやっていた事をまったく知らなかったんですが」とRiot KDanは笑って言います。「彼女のプレイ方法は、今まで見た中でも特に複雑なものだったんです。色々なコンボやら通常攻撃のキャンセルやら…本当にややこしくて。なのでリヴェンメインのSubredditのところに行って、効果音のテストのために色々なコンボを勉強しました。ちゃんと心地よく感じられる効果音にするため、リヴェン使いの皆さんが特に好んで使っているスキンを調べるという狙いもありました」
この研究期間を経て、Riot KDanはリヴェンのスキル効果音の「最初の一瞬」を重視することにしました。その結果、彼女の効果音はよりパンチの効いたものになり、さらにリヴェン専門家たちが嫌な音で集中力を乱されるという危険も回避できたのでした。
「ティーモのリコール音を連打できるようにするという罪を犯してしまいました」
「ティーモは精霊の花祭りのテーマからやや外れた存在だったので、自分にとっても楽しいチャレンジでした。彼はカンメイですが、実際はただ森の中で誰かにイタズラするだけの存在ですからね」とRiot Zabuは笑って説明します。「彼のスキルはどれも物理的です。吹き矢は持っていますが、カンメイのために用意したサウンドパレットを利用できるような、魔法が出てくる瞬間はそれほどありません。しかし、幸いなことに今回は彼の武器が笛になっていたので、そこから考えることにしました」
正直な話、ティーモは多くのトップレーナーを悩ませる存在です。なのでこの鬱陶しいタヌキは、邪悪な笛吹童子という役にぴったり(?)だったのでした。
ティーモが新たに演奏力を身に付けたことを知ったRiot Zabuは、彼の通常攻撃とスキルの音にペンタトニックスケールを用いました。こうしてティーモの殺戮を彩る愉快な曲が完成したのです。
この音楽的な効果音が、ティーモのゲームプレイ上での面白い特徴になりました。彼の通常攻撃は笛の音で、Qはさらにうるさく、1オクターブ高い笛の音になっています。しかし、まだ出てきていない物がありますよね。そう、皆さんも大好きなティーモの「毒キノコ」スキルです。
「ティーモの毒キノコが別の毒キノコに当たってバウンドする音については、どうすべきか自分でもよく分からなかったんです。効果音としてかなり異質なものだったので、ちょうどいい音が見つかるまでは大変でした」とRiot Zabuは言います。「その後、社内のデータベースにあったオウムの鳴き声を発見したんですが、それがいい感じだったんです。実際には鳥の鳴き声だと分からないように低音部だけ使いましたが、それでも調整はほとんど施していません。たまたま上手く行った感じですね」
「それと、本当にひどいこともやらかしてしまいました。ティーモのリコール音を連打できるようにするという罪を犯してしまったんです」とRiot Zabuは笑います。「実際はまあ、ちょっと連打できるというくらいですが。色々な人にテストプレイしてもらって、鬱陶しすぎないことも確認しましたし。でも上手く操作すれば、事あるごとにティーモに笛を吹きまくらせることができるんですよ。プレイヤーの皆さんが敵を挑発するのを見るのが楽しみでもあり、ちょっと怖くもあります。私はカミールがメインで、ティーモは最悪の相手の一人なので個人的には絶対会いたくないですね」
骨(とゲーム内での聞き取りやすさ)を粉々にしないために
カシオペアのサウンドデザインの際も、彼女はスキルのクールダウンが短く、また上手く立ち回るためにはスキルを連打せざるを得ないことから、リヴェンと同様の問題に直面しました。彼女はそれほどコンボ重視ではないものの、スキルレベルが上がってくるとEのクールダウンが極端に短くなるため、精霊の花祭りらしい効果音が鬱陶しくならないようにするのが難しかったのです。
「カシオペアは制作過程で色々な困難を切り抜けてきました」とRiot Zabuは言います。「当初は彼女のコンセプトアートに描かれていた花や視覚面のエフェクトを際立たせるため、ガラスのような効果音を考えていました。しかしビジュアル面の優雅さとオーディオ面の鋭さにギャップがありすぎる、とライアット社内のカシオペアメインからフィードバックが上がってきたんです。そこでトーンダウンさせる必要が出てきたのです」
ガラス音の鋭さを和らげるため、彼らはカシオペアのスキル全体に楽器や低い鈴の音を足しました。さらに耳障りな音の量を減らして全体的なバランスを取り、彼女の雰囲気を(他のアカナのチャンピオンよりもさらに美しい)退廃的な美女のようにする、というのがRiot Zabuの狙いだったのです。
「うちのQAエンジニアの一人でカシオペアメインのRob “Riot King Cobra” Rosaが使いたくなるようなスキンを作る、というのが個人的に掲げた目標だったので」とRiot Zabuは説明します。「日本の民話に登場する、三味線の音で侍をおびき寄せて殺す『瞽女(ごぜ)の幽霊』を元に、彼女のWに『精霊の契り』での人格を少し反映させました。ナラティブ担当チームもこの民話を参考にしていたのでテーマ的にも合っているし、私としても効果音に元ネタの要素を入れたいと思っていたんです」
子羊と狼は霊的領域でも「ズッ友」
「まず基本として、キンドレッドという1枠の中には2人の異なるチャンピオンが存在します。狼はアカナで子羊はカンメイなので、これは音の面から見てもなかなか面白いチャレンジでした」と語るのはサウンドデザイナーのRachel “Starlet707” Dziezynski。「なので両者それぞれの個性を表現しつつ、1つのチャンピオンとしての統一感も感じられる、ちょうどいいさじ加減の効果音を模索する必要があったんです」
そこでStarlet707は、狼のアカナらしさを強調するために、遠吠えのような特徴的な音はそのまま残しつつ、太鼓やスモーキーな音を使用。子羊についても特徴的な部分は残したまま、鐘や笛の音を足しました。
「キンドレッドのアルティメットにはウォーターフォンを使ったんですが」とStarlet707は説明します。「この楽器の優美で神秘的な音は、精霊の花祭り全体の雰囲気ととても相性がいいんです。彼らの効果音にカンメイらしい華やかさが添えられたのも、これのおかげだと思います」
スレッシュ、その究極の美
「両極の要素を兼ね備えたチャンピオンという点では、スレッシュもキンドレッドによく似ていました。彼は基本的にアカナなのですが、カンメイのような美しさを得ることを熱望していて」とサウンドデザイナーのJP “Riot Strâtos” Allerは説明します。「ゲーム内でも魂をおびき寄せ、そのエネルギーを吸収することで変身できるので、サウンドデザインの面からも彼の渇望を表現したいと思ったんです」
その表現のため、Riot Strâtosは精霊の花祭りのサウンドパレット用にチームが事前に用意していた「ビルディングブロック」の一部を直接利用しました。このビルディングブロックというのは本来、特定のテーマに沿うよう事前にデザインされた、カスタマイズのための音素材です。サウンドデザイナーは各々の作業中にこういったビルディングブロックを足すことで、最終的に統一感が生まれるようにするのです。
「その他のスレッシュに関する仕事で特にクールだったのは、彼のランタンの人格を具体的に表現したことですね」とRiot Strâtosは言います。「ランタンの感情表現に使えるような、悪魔っぽい無意味なセリフをいくつか吹き込んでもらえるよう、スレッシュの声優にお願いしたんです。それとダンスに使う曲 も作りました。誰も気に留めないことを祈っていたんですが、どうやらプレイヤーの皆さんは受け入れてくれたようです」
「狐の鳴き声は効果音としては最悪でした」
「アーリは精霊の花祭りで最初に作成されたチャンピオンの一人で、サウンドパレットの方向性を決める上でも大きなインスピレーションになりました」とRiot Strâtosは言います。「テーマ開発担当チームが幻想的な世界を持ってきてから、その設定や彼女の持つ物語にすっかり没入してしまって。彼女は死者の魂を魅了する存在であり、私としてもその部分を彼女のスキルで表現したいと考えました」
Riot Strâtosは精霊の花祭りアーリの設定を軸に効果音をデザインすることにしました。Qは彼女の魂に対する影響の及ぼし方に、そしてWは彼女の衣装と、狐の姿の時に身に着けている鈴に由来しています。
アーリのEは彼女が音を利用してこの世界に来たばかりの魂を魅了するという設定が元ネタで、Rは狐の鳴き声の表現です。
「ここでは実際の狐の鳴き声をアーリのスキルに使おうと思ったんですが、実際の狐の声はとても不快だったんです。効果音としては最悪の部類でした」とRiot Strâtosは笑って語ります。「効果音のベースとして他の色々な動物の鳴き声も試したんですが、可愛い音にはなったものの、どうもしっくり来ませんでした。なのでベースを狐の声に戻し、エンベロープやリバーブをかけてから、特に不快に感じられた部分だけを消しました。この不快な声から、感情をリアルに表現する部分を削り出そうと思ったんです」
冷酷無比、残酷非道、そして…眉目秀麗?
ヤスオはとても人気のあるチャンピオンですが、1人のチャンピオンのスキンがこれほどまで増えてくると、元のイメージを損なわずに新鮮な印象を与えられるようなサウンドパレットを新たに作り起こすのが難しくなります。
「精霊の花祭りのサウンドパレットはとても穏やかで落ち着いたものなんですが、今までのヤスオのスキンにはそういった要素がなかったので、本当に大変でした」とRiot Kdanは話します。「ヤスオの持つ冷酷で危険な雰囲気を保ちつつ、同時に美しい響きを持つスキンにしたいと考えていました」
そのために、Riot KDanはヤスオのQの突きに鈴や鐘の音を足しました。さらに他のスキンでは攻撃的な響きになっている「つむじ風」が使えるようになった際の効果音も、笛の音を取り入れることで出来るだけ「精霊の花祭り」らしい、穏やかな雰囲気に仕上げました。
この作業中、彼は他の開発者たちからヤスオの持つ最も忌々しいスキルについてのフィードバックを受けました。そう、「風殺の壁」です。
「ヤスオの『風殺の壁』の効果音はいつもの風の音ではなく、魔法の絵巻物が開くような感じの音がいいんじゃないか、と提案してくれたアニメーターがいて」とRiot KDanは続けます。「そこでアイデアがひらめいたんです。ヤスオには笛を吹く趣味があるので、Starlet707に演奏・録音してもらった笛の音を盛り込みました」
「ヨネ」ドールの角笛
ヨネは当時まだ開発中だったことから、サウンドデザイン作業が始まったのも他のチャンピオンより後でした。
「精霊の花祭りヨネの作業中、私は専用のサウンドトラックが用意されることになっていた『路:アイオニアの伝説』の方も手伝っていて」とリードサウンドデザイナーのBrandon “Riot Sound Bear” Readerは語ります。「その音楽の初期段階のものを何曲か聴いている時に、精霊の花祭りヨネがEで霊体に変化した時のクールなアイデアを思いつきました。その曲に使われているヴォーカルがスキルの効果音に最適だと思ったんです。が、ちょっとした問題もありました。曲自体がまだ完成版ではなかったので、音がやや粗かったんです。」
そこでRiot Sound Bearはその初期の音楽にイコライザーをかけてヴォーカルの部分だけを抜き出し、チームに聞かせました。その反応は…微妙でした。最初のうちは好評だったのですが、繰り返し聴いていると角笛の音のように聞こえてくるというのです。
しかしRiot Sound Bearはくじけませんでした。このヴォーカルが合うと信じていた彼は一旦これを保留。そして完成版の音楽が届いた時にヴォーカルトラックが手に入ったことで、チームもそれがぴったり合うことを認めたのでした。
あとはお水を入れるだけ
リリアは…まさに「精霊の花」そのものです。そしてサウンドデザイナーのDarren “Riot DummerWitz” Lodwickが苦戦を強いられたのは、この「リリア」を「精霊の花祭りリリア」に作り変えていく作業でした。非現実的で、摩訶不思議な、夢のような存在。この両者は、最初から多くの面で要素が被っていたのです。では具体的に一体どうやって、リリアの持つ雰囲気を高めつつ、ベースとは異なる効果音に仕上げればいいのでしょう?
「まず最初に着目したのは、リリアの持つ夢の大枝にぶら下がっているガラガラでした。ベーススキンでの音は木の感じが強かったので、金属製のガラガラや、宗教儀礼に使われる日本の鈴のような軽やかな音を足してみました」とRiot DummerWitzは説明します。「このおかげで夢のような雰囲気はそのままに、よりスピリチュアルな印象の音になったんです。しかし自分でもまさか使うとは思わなかったのは水の音ですね」
Riot DummerWitzは、リリアの魔力を感じさせるヒット音の一部を水滴の音に変えることで、あたかも完全に静止した水面に一滴の水が落ちるかのような、よりスピリチュアルかつ穏やかな雰囲気を引き出すことに成功したのです。
ちょっと待って、このチャンピオン通常攻撃だけじゃ…
ヴェインは右クリックマシーンです。基本的にすべてのスキルが通常攻撃を強化するものになっています。こんな魔法の介在する余地のないスキルセットに、一体どうやって神秘的な魔法感を追加すればいいのでしょう?Starlet707はこの難問に対して、はっきりとした答えを出さねばなりませんでした。
「ヴェインについては、アカナとカンメイのバランスを取る必要があったキンドレッドよりもさらに大変でした」とStarlet707は言います。「ヴェインのスキルはどれも素早く強烈なので、精霊の花祭りのテーマ性を込められそうな隙を頑張って探す必要があったんです。そこで目をつけた箇所の1つが彼女のタンブルだったんですが、これも結局は大仕事でした」
初期段階で作ったスキル効果音はベーススキンのものと似すぎていたため、Starlet707は鈴や鐘の音を足して、精霊の花祭りの雰囲気に近づけようとしたのですが、そこでちょっとした問題が起きました…。
「ヴェインのタンブルの音に鈴を足してみたものの、これはダメでした。というのも、クリスマスの鈴の音にそっくりだったんです。…まあ実際にあの鈴(スレイベル)を使ったから当たり前ですけどね」とStarlet707は笑います。「これはクリスマスのスキンじゃないので、合うはずもありません。最終的にはスモーキーな要素を追加するところに落ち着いて、自分的にもこれが一番しっくり来ました。それと衣擦れの音もちゃんと残しておくように気をつけました。ゲームプレイ上の重要なポイントですから」
ここでもう一度、スレッシュのお話
ここまで効果音について色々見てきましたが、効果音はサウンドデザインという作業の一側面でしかありません。「キャラクター音声のデザイン」という別の側面もまた存在します。
「精霊の花祭りスレッシュの音声作業については、それなりの覚悟で臨みました。彼の恐ろしい亡霊のような声はチャンピオンとしてのキーポイントにもなっているので、精霊の花祭りだからといって普通の声にはできませんからね」とJulian “Riot Zimberfly” Samalは言います。「とはいえ、ある程度の調整は必要でした。今回のスレッシュはちょっと…ハンサムだったので」
新たなイケメンの姿を得てもなお、スレッシュ自身は以前と変わらずサディスティックなままでした。そこでRiot Zimberflyはこの新たな姿と音声を、一風変わった処理方法でマッチさせたのです。
新しいスレッシュの音声は3層の異なったレイヤーで構成されていて、さらに4層目として「元祖スレッシュ」の雰囲気を出すためのリバース・リバーブがかけられています。
1層目のレイヤーはスレッシュの音声がちゃんと聞き取れるようにするための、いわば屋台骨のようなものです。
2層目のレイヤーも同じ音声ですが、こちらは(イケてる「推しメン」精霊にふさわしい)ダークで不気味な雰囲気を出すため、より低くこもった音にしてあります。
3層目のレイヤーは厚みを加えるためのものです。彼の持つ力感や存在感が「聞こえる」というよりも「感じられる」よう、低音域を強調しています。
そしてRiot Zimberflyは最後に、すべての層の上に亡霊のようなリバーブのレイヤーを被せて、スレッシュが本来持つファンタジーさから逸脱しないようにしました。
「作業に取り掛かった当初は、一つの声をスレッシュの精霊形態と人間形態の両方に使い回せると思っていたんです。ですが考えが甘かったですね」とRiot Zimberflyは笑います。「しょうがないと割り切って2種類の音声を用意してみると、精霊と人間という相反する2つの姿の、物腰のギャップが強調できるようになりました。最終的には双方とも個性的な印象になったと思いますし、プレイヤーの皆さんにも受け入れていただけることを祈っています」
これが「精霊の花祭り」のサウンドデザインの顛末です。そしてこの連載の最後でもあります。私たちが精霊の花祭りを作り上げることを楽しんできたのと同じくらい、皆さんもこのイベントを楽しんでくれることを願っています。では皆さんの苦しみが枯れ、喜びがふたたび花開かんことを。良き精霊の花祭りをお過ごしください。