チャンピオン開発エピソード:ゼリ
編集者注:みなさん、こんにちは!「ゼリ」とVALORANTの新しいエージェント「ネオン」の間に、いくつかの類似点があることにお気づきでしょうか?実はこの2体のキャラクター、同じチームによって一緒に開発されたのです。ネオンについてもっと知りたい方は、VALORANTの公式ページをご覧ください。
ゾウンは公害がひどく、不平等な扱いが横行していて、危険なテクノロジーが研究されているだけの場所ではないとしたら?そこには毒性の濃霧の層以上の深みがあるのだとしたら?そこは魔法が存在するだけでなく、魔法が盛んに活用される場所であり、何よりもコミュニティーが重視され、そこを故郷と呼ぶ人々が抱える問題を受け入れてくれる場所だとしたら?
ネオンが明るく輝く、驚くほど活気にあふれるゾウンの別の一面を表現する新たなチャンピオンが登場します。名前はゼリ。
ボットレーンにエイムの面白さを
LoLのほとんどのチャンピオンは、最初はクリエイティブ・シードから始まります。これは開発チームのきっかけとして使用するものです。しかし、ゼリはゲームプレイのアイデアや過去の物語の登場人物、美しいコンセプトアートなどではなく、ひとつの銃がきっかけで誕生しました。
「FPSの面白さは正確な狙いです。エイムが重要であり、それが面白さのカギになっているんです」とプリンシパル・ゲームデザイナーのAugust Browningは語ります。「LoLのADCはとても素早く攻撃できますが、FPSのように精密なエイムを要求されることはありません。その感覚に最も近いのはスキルショットが重要になるエズリアルですが、それでもFPSからはかけ離れた存在です。FPSで正確なショットを決めたときの爽快感はADCでは得られません。そこで、この爽快感をLoLで再現してみたいと考えたんです」
LoLには大量の銃が登場していますが、Augustが言っているような感覚を得られるものはひとつも存在しません。そこで、サモナーズリフトに新たな銃のタイプである「アサルトライフル」を登場させることにしました。
アサルトライフルはタクティカルシューターでは欠かせない存在です。マウスエイムの精度が問われるスナイパーライフルや、継続的に弾を連射するLMGとは異なり、アサルトライフルは高速でバースト射撃を行うので弾を連射する感覚が得られます。しかし、このコンセプトには根本的な問題が存在しました──ADCと言えば右クリックするものだと決まっているLoLに、どうすればエイムを基本とするオートアタックを持ち込めるのか?
私たちはジンクスやコグ=マウのように「相手が倒れるまで移動攻撃」するチャンピオンが好きです。しかし、右クリックでは敵にヘッドショットを決めたときのようなドーパミンが放出される感覚は得られません。そこでAugustは、正確なエイムというゲームプレイのテーマを実現するために、ゼリの“オートアタック”をスキルショットにすることを決めました。
「でもライアット、ADCは右クリックするものだと、たった今言ったじゃない…右クリックでどうやってスキルショットするの?」
簡単です。ゼリはQでオートアタックするんです。
聞こえますか?何百万人ものサポートメインのプレイヤーが悲鳴を上げています。
「私たちは単に差別化のためだけに独特なオートアタックを持ったチャンピオンをデザインすることはありません。これはそのキャラクターをプレイする際に独特な感覚を得られるようにするためのものなんです」とAugustは説明します。「ゼリに独特なオートアタックを持たせたのは、LoLでFPSの精密なエイムを実現したかったからです。しかしそれが理由で、彼女は他のADCよりも習得の難易度が高くなっています。優れたゼリ使いはすべてのQを命中させるために頻繁に動き回ることになると思いますが、そのレベルになるまでには時間がかかるでしょう。彼女は他のADCとは大きく異なっているからです」
ゼリには銃撃以外にも、FPSでお馴染みのメカニクスである「移動」が導入されています。「え!ライアットはいったい何を言ってるの!?」と思うかもしれませんが、まずは話を聞いてください。
機動性について過去にもお話ししたことがありますが、移動はゲーム業界においては別に珍しいものではないものの、LoLにおける移動の仕組みはFPSとは大きく異なっています。
FPSでは異なる地点間を素早く移動して挟み撃ちを仕掛けたり、立体的なオブジェクトを乗り越えて敵を射撃したり(またはオペレーターの狙撃を全弾外したり)する必要があります。LoLではテレポートしたり、挟み撃ちを仕掛けたり、時には突撃したりということもありますが、FPS対戦の「全力でラッシュする」という感覚が得られるものではありません。だからこそ、ゼリではLoLのゲームプレイを破綻させないようにしながらも、高い機動性でダッシュする感覚を表現する必要がありました。
この頃、コンセプトアーティストのNancy “Riot Sojyoo” Kimがゼリのさまざまなコンセプトアートを描き上げており、そのなかにローラーブレードを履いたゼリのアートがありました。
「最初はローラースケートを履いたゼリが好きではなかったんです」とAugustは笑います。「でも、機動性の高さを上手く表現する方法を考えていて、これがぴったりじゃないかと思うようになったんです。ゾウンのパイプをスケートで滑るゼリの姿が思い浮かびました。壁やハーフパイプに近づくと端までグラインドができる、スケートボードゲームのようなイメージが思い浮かんだんです。そこで…それができるようにしました。ゼリはゲーム内のあらゆる壁をグラインドできるんです」
ゼリは壁を越えられるだけでなく、「壁抜き」という独特なアクションも可能です。
「VALORANTの“壁抜き”が大好きなんです」とAugustは言います。「これは薄い壁などで壁越しに敵を倒すことを言います。敵の姿が見えなくても、音を聞けば、壁越しに狙いをつけることが可能です。ゼリのWはこれを再現しているんです。撃った弾が壁に当たると、その弾が壁を越えて飛び、壁の反対側にいる敵に当たるんです。これはVALORANTのオペレーターをイメージしていますが、LoLの壁はVALORANTの壁とは大きく異なります。これは“LoLでオペレーターの壁抜きを再現するとどうなるのか?”という疑問への回答となります。LoLの飛翔物は元から壁を越えて使えているので、壁に当たったときに特別な何かが必要になるでしょう」
バイオライトニング・マックイーン
ゼリの開発では銃以外にも、LoLのチャンピオンとVALORANTのエージェントを同時に開発するというもうひとつの目標がありました。LoLのプレイヤー人口のおよそ20%はVALORANTもプレイしているので、操作感が似ているキャラクターを開発すれば、両方のゲームでメインキャラクターとして使ってくれるのではないかと考えたのです。これは正直に言って、困難な挑戦でした。
LoLとVALORANTにはほとんど共通点がありません──スカトルクラブを除いては(スカトルよ永遠なれ)。しかし、プレイ可能なキャラクターはそれぞれにユニークな力を持っているという基本的な部分では共通しています。
「Riot SojyooとVALORANTのコンセプトアーティストのKonstantin ‘Zoonoid’ Maystrenkoと一緒にブレインストーミングを行い、さまざまなアイデアを考えてみました」とコンセプトアート・リードのGem “Lonewingy” Limは言います。「色々なアイデアが思い浮かびました!折り紙の魔法、グラフィティ、霧と煤、光の魔法、液体金属と水銀、人間プリンター、野球少女、VRゲーマー少女など…そして誰かが、“生物発光する電気ウナギ少女”のアイデアを出して、みんながそれを気に入ったんです」
ルーンテラでは、どこの出身であっても魔力を持って生まれる可能性があります。魔力を持った人が生まれる可能性は、ピルトーヴァーやゾウンに比べればアイオニアが高いとはいえ、あり得ないわけではありません。この姉妹都市の出身で魔法を使うチャンピオンも存在しますが、そのほとんどはへクステックやケミテックがパワーの源となっています。
ゼリの魔法はまるで人間電池のように体内から発生するものであり、とても強力です。本当に、本当に強力なんです。ゼリはまだ若く、魔法を安定して活用する方法がまだ分かっていないので、時には魔法が制御不能な形で現れることがあります。
「ゼリはまだパワーを完全には制御できていないんです。彼女よりも年上でパワーを使いこなしているヴァイやビクター、ジェイスなどのピルトーヴァーやゾウンの他のチャンピオンとは、そこが大きく異なります」とナラティブライターのMichael “SkiptoMyLuo” Luoは語ります。「彼女はある意味、エコーに似ています。ゼリが違うのは、魔法が発動する仕組みです。彼女はまだパワーを制御できていないうえに、少し問題を抱えています。落ち着きがなく、不器用なのです。落ち着きがないところは、彼女の電気というテーマに合っていると思います。常に素早く走り回っているので。感情的で電気のように激しい性格は、Augustが考えたゲームプレイにぴったりだと思いますね」
ゼリのアルティメットスキルは彼女の持つ高エネルギーの電気を実体化させるものです。大きなエネルギーに満ちて、全開状態になり、電気のエネルギーが溢れだします。ゲーム内ではこれを攻撃速度と移動速度の上昇で表現しており、敵に向かって突撃して、パワーを上手く使うことができるかどうかで威力が変わります。
しかし、このような魔法には欠点も存在します。
考えてみてください──自分の体内から継続的に電気が発生し、感情的になると制御できなくなるという状況を。家族とハグするときや、ファーストキスのときには十分に気をつける必要があります。寝ているときに悪夢を見れば、制御を失うかもしれません。
危なっかしい魔力を持つゼリは、ピルトーヴァーの市民からは排除すべき問題と見られてしまうかもしれません。しかし、幸いなことに、ゼリはピルトーヴァー出身ではありません。ゾウン人なのです。ゾウンでは、変わった人間の扱い方が他とは違います。魔法を大衆のために一般化することにはあまり興味がなく、自分たちのコミュニティーの個性を際立たせるものや、汚れた霧の下の世界を美しくしてくれるもの、ゾウンをゾウンらしくしてくれるものを支持します。
ゾウンのバヤニハン(助け合い)精神
新チャンピオンを開発する際には、難易度やゲームプレイのテーマ、シルエットなど、多くのことを考えなくてはなりません。しかし、それ以外にも、すべての地域のプレイヤーに、自分たちの代表だと感じて共感できるチャンピオンを用意したいとも考えいています。
アクシャンがボリウッド映画をテーマにしていたり、サミーラの移民の物語など、LoLのチャンピオンの多くは、その開発に携わった開発者たちの出身地域の文化や物語の影響を受けています。ゼリも例外ではありません。
「ゼリをフィリピン人にすることは私の個人的な目標でした。自分がフィリピン出身であるからというだけでなく、フィリピンではゲームが人気なのに、ゲーム内にフィリピン人、特にフィリピン人の女性が登場することがほとんどなかったからです。ゲームに登場するフィリピン人のキャラクターは… 私でも4人くらいしか思いつきません」とLonewingyは言います。「SkiptoMyLuoが電気ウナギのアイデアを出したとき、ふと思いついてしまって…」そう言って彼女は笑いました。「それで、自分のパワーを制御できずに困っているゾウンの中流階級の女の子が登場する、ありがちな学園ものの物語を書きました。彼女は一帯を停電させてしまうのですが、これはフィリピンではよくあることなんです!発電所のパイプにクラゲが吸い込まれて、大規模な停電が発生したこともあるんですよ!」
「そこで、この陽気でお転婆な女の子の物語を考えたんです。私には…とてもしっくりきましたね」とLonewingyは笑みを浮かべます。「タガログ語には“カババヤン”という言葉があります。これは仲間のフィリピン人のことを意味しており、自分の村や近所の出身の人など、あらゆるフィリピン人を指して使われます。フィリピン人は家族や村を中心にした文化を持っており、互いに助け合うことを信条としています。ゼリはフィリピン文化に根差したキャラクターにしたいと考えました。なぜなら、ゾウンにはそういう、地元を大切にする文化があると思えたからです。そして、私が書いたおかしな物語を、SkiptoMyLuoがより良いものにしてくれたんです」
(SkiptoMyLuoがミュートを解除して、このコメントに口を挟む)
「そのときの話にとても刺激を受けたんです!彼女が愛すべき問題児だという設定に、とても惹かれましたね。ゾウンにはグリムダークで魅力的な環境が存在します。生き延びることが困難なんです」とSkiptoMyLuoは語ります。「その一方で、乱雑な美しさがある愛すべき都市でもあります。そこにはエコーなどの愛すべきキャラクターがいて、彼らの存在によって、ゾウンという存在を忘れ去られるような場所ではないという感覚にさせてくれるんです。ゼリのようなチャンピオンは、それを新たな方法で表現する存在だと思います。彼女だけでなく、彼女の家族や、彼女の周囲にあるゾウンのコミュニティー全体がそういった表現のための存在なのです」
“ゼリは制御できないほどのとてつもないパワーを持っている”と言いましたが…そこで彼女の家族や地元の人々が関係してくることになります。
ゼリが持っているものは、すべて彼女のコミュニティーから生まれたものなのです──大金持ちのケミ長者や、その組織から手に入れたものではありません。彼女のジャケットはご近所さんのお下がりで、それを父が改造して、彼女のパワーを減衰させることを可能にしています。これで家族とハグできるようになっています。彼女の銃は母が造ったもので、近所の人々が彼女がパワーをコントロールできるように、近くで見つけた工場のスクラップ材から造っています。誰も、その見返りを要求したりしません。でもゼリにとって、それではダメなのです。彼らが自分に与えてくれた無償の愛と支えに、お返しをする必要があります。なので、彼女は彼らのために戦っているのです。ゾウンのために戦っているのです。
「個人的には…最終的に完成したゼリのキャラクターをとても誇りに感じています」と、SkiptoMyLuoは笑って言います。「Lonewingyからフィリピンにおけるコミュニティーの重要性について聞いたときにピンと来たんです──ゼリはコミュニティーが生んだ英雄なんだと。ゲームデザイン、ナラティブ、アートのすべてが上手くかみ合ったときは、素晴らしいシナジーが生まれます。彼女は完璧な存在ではありませんが、ゾウンでは傑出した存在であり、彼女がいれば明るくて陽気な気分にさせてくれます。しかし、セラフィーンのようなキャラクターとは異なり、彼女は自分の故郷の残酷な現実を理解しています。彼女はうぶではありません。世界を救う存在ではありませんが、さまざまな困難を抱えながらも、できる限りのことをしようとしています」
そして幸いなことに、もし何かあっても、ゾウンの人々や彼女のコミュニティーが支えてくれるのです。